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第1回 スキャン・トレースのプロのテクニック

提供者 : セルシス    更新日 : 2015/06/30   
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(1)アニメ制作の今と昔

今は昔、アニメーションと言えば、紙に描かれた絵をトレースマシンでセルに熱転写し、裏からセルアニメ用の絵の具でひたすら塗る作業の連続でした。沢山の絵の具を管理しなければいけないし、色を塗り間違えたら一からやり直しが必要だし、塗ったら絵の具が乾くまで待たなきゃいけない。それは、それは大変でした。

これが昔のトレースマシンです。
キャリアと言う板に動画をはさんで、カーボン紙を敷いて、更にセルをその上に載せて一気にトレースマシンを通し、その熱で絵をセルに転写していました。

でも今や世はデジタルの時代、アニメ制作といえばRETAS STUDIOです。トレースマシンの熱で汗だくになっていたトレース作業が、パソコンとスキャナで出来て、信じられないくらいに快適になりました。

熱くないし、カーボンで手も汚れない、セルの管理もバッチリ。デジタルの恩恵をフルに受けられるRETAS STUDIO。当初はアナログ世代には驚愕でした。
ただ、機材や方法は変わっても、紙に描いた絵を写して作業するという工程は変わりません。もちろん、絵を描く工程自体をデジタルで行う事もあるかも知れませんが、まだまだプロの現場でも絵は手描きが大半を占めています。
今回は、そんなアナログからデジタルへの橋渡し、スキャン、トレース作業について見ていきましょう。

 

(2)アナログ部分はとても大切

いくらデジタル化されて世の中便利になったとは言え、RETAS STUDIOは魔法の箱ではありません。間違っても状態の良くない絵がスキャナでトレースしてきれいになる、なんて事は無いのです。
絵の上手下手はさておき、汚れやしわの無い状態は心がけひとつです。これはプロの現場でも個人制作でも同じですので、動画の作業にはきめ細やかな気配りをした方が良いでしょう。

RETAS STUDIOの中でスキャン、トレースの工程を引き受けるのが[TraceMan]です。まずは、この[TraceMan]を使って動画をスキャンしてみましょう。

アニメーションの場合、連続した絵を多数スキャンする事になるので、動画をいかによい状態でスキャン出来るか、最初にきっちりとコンディションを整える事が重要です。私達もこのプロセスには特に注意を払います。

パソコン周り、特に、スキャナのガラス面は常にきれいにしておく事が肝心です。ここにゴミなどが付いているといくら動画がきれいでも、全てのスキャン、トレース結果にその汚れが出てしまいます。

整理整頓は現場の基本!

同様に動画に汚れや線のかすれがあると、それらはそのままスキャンの結果に反映されてしまいます。



左の動画は、スキャンしてみたデータです。余分な鉛筆の跡、消しゴムのカス、また、手でこすれてかすれてしまった線は無常にもそのままトレースデータに出てしまいます。
「ええ!大変じゃないか...!」とお嘆きの方、ご安心下さい。「こんな事もあろうかと密かに用意しておいた...」ではないですが、ここからが[TraceMan]を含むRETAS STUDIOの数々の便利な機能が威力を発揮する場となるのです。

「じゃあ最初からさっさと説明してよ!」と思われるかも知れませんが、最初にも言った様にアナログ部分は予想以上に大切なのです。プロの現場では常に丁寧、きれいな仕事を心掛けているので、プロでいられるのです。
皆さんもアニメーションを作る上で心の片隅に留めておいて下さい。

さて、それでは実際のプロの現場ではスキャン、トレース作業を行うときに、どのような視点で作業前に動画を確認しているかについてもご紹介していきましょう。

 

(3)まずはカット袋の確認から

先ほどご紹介したように、スキャン、トレース作業の現場で真っ先に突き当たるのが動画の出来です。言うまでも無く、丁寧な作業の動画が来れば何の問題もありません。
しかし、現実はそう甘くないので、状態のよくない物については、作画のセクションに可能な限りオーダーを出して、常にきれいな状態の物を提供してもらうようにします。結果として、それが全体の作業効率の向上につながります。
まずは、カット袋を確認します。

作品名、制作話数、カットナンバー等の情報が有りますが、スキャンの際、まず着目するのが赤枠の部分です。
原画マン、動画マンの確認はもとより、作画監督チェックや動画チェックが確実に成されているかが重要です。これらのチェックが通っていないと作業には入れません。

次にセルと枚数です。両方とも少なければそれにこした事はありませんが、いつもそんなにうまくは行きません。

この様な場合は比較的安定した作画内容が予想され、ひとまず安心です。
次のような場合は少し注意が必要になってきます。

まず、枚数が多い。多いという事はそれだけ作画作業も大変で、最初と最後の方とでは作画の調子が変わってしまっていたりします。この様な場合、枚数の多いセルは幾つかの枚数で区切りをつけて、作画の調子を確認する事が重要です。
さらに注目すべきは動画マンが連名になっているという点です。作業軽減のため、キリの良い原画番号で区切って作業をわけた物と思われます。描き手が変わるという事は、確実に作画の調子も変わるという事なので、この辺りも注意して作業しなければなりません。

また、カメラワークやサイズの指示も見逃せません。場合によってはスキャナに取り付けたタップを定位置から移動させたりと、作業に時間を取られたりします。



カット袋からの情報を的確に捉え、スキャン、トレースの順番を割り振る事も、作業効率を上げる要素の一つになります。

 

(4)レイアウトの確認

次にカット内容を確認していきます。まずレイアウトの確認です。レイアウトはそのカットがどの様な内容なのかが把握出来るものですので、必ず目を通します。

レイアウトはこの後の作業でも必要なので、必ずスキャンしておきます。この場合は見た目が情報源になるので、2値化する必要はありません。

コンロは背景、ケトルはセルでクミ線有り、テーブル、イスはbook扱いだが演技に絡むイスはセルと、すぐに幾つかの情報が読み取れます。
すると、次は何をスキャン、トレースするかはおのずと決まってきます。

ペイントの作業で必要になってくるクミ線指示があるはずです。クミ線指示は、美術の方にも同じ物が送られていて、双方を合わせた時ズレが生じない様にする重要な物なので、必ず確認して丁寧にスキャン、トレースします。こちらはペイント作業時に使用するので2値化しておきます。

また、レイアウトにカメラワーク指示が描き込まれている場合も、さらに正確なカメラワーク指示がありますので、よく確認してスキャン、トレースします。こちらは主に撮影時に使用しますので、単純な指示内容の時は容量を軽減する為、2値化しておく場合が多いです。

これ以外にも情報源としては、原画や修正レイアウト等、様々な物がありますので、面倒でも作業前に目を通しておく事が大切です。

 

(5)タイムシートの確認

次にタイムシートの確認です。ここにも実作業に関連する様々な情報が書き込まれているので、必ずシートの枚数を確認して、裏表に目を通します。
そのカット独自の注意事項や合成伝票は大抵、裏面に記載されています。合成が有る場合は親セルが該当連番の頭に差し込まれていたりします。また、番号欠番、割り込み番号等、重要な情報を見逃すとセル番号が合わなくなり、後で大変な手間になります。

スキャン、トレース作業に集中していると、案外、セル番号を見落としがちになったりするので、事前の確認は大切です。

必要な情報を把握出来たら、動画の確認に移ります。

セルとセル枚数が合っているか、一通り番号を確認します。ごく稀に順番が入れ替わっていたり、違うセルが混じっていたりする場合があります。
また、禁止されている色トレース色が使用されていないか、動画用紙の汚れのひどい物はないかも見ておきます。
繰り返しになりますが、状態の良くないものは当然、スキャン、トレース結果もよろしくない場合が大半なので、遠慮なく、前のセクションに戻して修正してもらいます。問題がなければ取り込みの準備です。

 

(6)取り込み開始!

まず、[2値化トレース]の基準になるセルを選びます。一度に多くの線情報が取れる原画番号の動画と、作画番号の動画を「TraceMan」でトレースし、[2値トレース設定]の結果を比較して基準値を決めます。なぜ二つのパターンから取るかと言うと、原画をトレースする原画番号の絵と、中割りをする作画番号の絵とでは、線の調子が違う場合があるからです。もし、この二つに差が無ければ、いちばん適した絵のみの値で問題は無いでしょう。

B16(原画番号)
B18(作画番号


この場合は、B16(原画番号)とB18(作画番号)のスキャン、トレース結果に差が無いので、一定の値で問題なく作業が出来ます。

セルごとに線の調子を確認する事も大切です。レイアウトで手前と奥の人物対比が大きい時などは、動画の線の調子を良く見て、[2値トレース設定]でそれぞれのセルの数値を決めます。

Fセル
Bセル


Bセルの奥の2人と、Fセルの手前の人ではサイズに差があるので線の調子も変わってきます。[
2値トレース設定]の値もセルごとに調整して、それぞれに一番適した値でスキャン、トレースします。

さらに、枚数が多いセルはある程度スキャンが進んだところで、一度線の調子を見直してみて、必要ならば再度、[2値トレース設定]の値を調節しながら作業を進めます。

Cセルが100枚以上あるので、C40、C80と、区切りの良いところで[2値トレース設定]の値を見直してみるのも質の向上につながります。

 

(7)さらにクオリティアップの一工夫

本来は動画に完璧な物を求めるべきなのでしょうが、そうも言っていられない状況の時が多々あり、スキャン、トレースの際に工夫を凝らす場合もあります。
線の出がよくない時に、フィルター機能を使えば安定した線の結果が得られることがあります。

[2値トレース設定]だけでは線に少しムラがあるので[フィルター]メニューの[ぼかし]、[シャープ]などの機能を[バッチパレット]に組み込み、何度か適用すると状態が改善しました。

 

 

また、[TraceMan]でスキャナが動作中に、次の絵をよく見ておくことも大切です。この間に、動画用紙に付いた消しゴムのカスなどはその間に払い落としておきます。同時に線のかすれ具合もチェックしておきます。少しのダメージなら動画の線を補正する事もあります。

 

 

動画の線がかすれている所を発見、前の絵をスキャナが取り込んでいる時間を利用して鉛筆で加筆修正する。

 

 

繋がらなかった実線部分が繋がり、手間を未然に防ぐ事ができる。

この様に、多少の手間や、わずかな時間も有効活用して画質の向上に努めましょう。スキャン、トレースの結果の良し悪しが、ペイント作業の効率に大きく関わってきますので、丁寧且つ、迅速な作業を心がけましょう。

次回は...
早速、プロのペイントテクニック!ペイント前に事前のチェックで更にクオリティの高いセルに仕上げる為の、トレース修正作業を見てみましょう。

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