第3回 ペイントのテクニック
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こんにちは、早いものでこのコーナーも最後になりました、みなさんアニメしていますか。
さて、これまでスキャン、トレース、トレース修正と、どちらかと言うと作業的には地味なセクションの説明をしてきた訳ですが、今回はいよいよ画面に色が入るペイントの作業を見ていきましょう。
(1)やはりここでも確認が第一
トレース修正、ペイントを一括作業されているなら既に前段階でカット内容の確認は済んでいると思いますが、分業でペイントに入るなら、レイアウト以下、ひととおり必要な素材が全て揃っているか確認して下さい。
特に色指定が入っている原画やコピーには注意して下さい。これがないとキャラクターをどの設定でペイントしてよいのか、描かれているものの色が何なのかわからなかったりします。
ノーマル以外の設定の場合、カット袋にその指示が記載されている場合が多いので、その辺りも注意して見て下さい。
(2)必要なものを準備しましょう
まず、[PaintMan]で作業するカットを呼び出しましょう。
[ファイル]メニュー→[開く]→[セル]を選択します。
必要なカットが格納されているフォルダに行き、作業するセルフォルダを開きます。
[TraceMan]で作られたデータが[PaintMan]に難なく読み込まれます、簡単ですね。
次に原画に指示されている色指定bookのデータをサブパレットに読み込みます。
色指定はカットの内容に合わせて複数枚に指示が入っている場合がありますので、良く確認して見て下さい。
これで必要なものがそろいました、準備完了です。
(3)ペイント開始
カットを[PaintMan]に読み込んだらいよいよペイント作業です。色指定で指示されているキャラクターの色指定bookのデータにしたがって色を付けていきます。色指定bookに載っていないものはその都度、原画や別紙に指示が入っていますので、それらを見て必要なデータやカラーチャートを用意することになります。
まずは色を着けてみましょう。[PaintMan]はとても便利に出来ていますので、サブパレットにカーソルを持っていくだけでスポイトツールになってくれます。
また、色を取る場合はカラーボックスから取るように心掛けて下さい。
さらに、必要に応じて[フィル]のツールオプションで含み塗りにチェックを入れておくと、該当する色トレス線も同時に着色されます。
トレース修正できれいに整えられたセルにペイントしてみましょう。
(4)細かい部分への気配りが大切
やっとそれらしくなってきましたね。でも、よく見てみましょう。特に注意するのは色トレスを含めた線と線が接する部分です。現場のペイント作業でもこの部分には常に注意を払っています。
作業自体は人が行うので、トレース修正をしてもこのような閉領域を完全に取り除くことはなかなか難しいです。ここは地道に作業していくしかありません。かと言って、ここで貴重な時間を潰すのももったいないので、ここでも便利なツールを使います。
まず、[Ctrl]キー+Bを押してみてください。
このように透明部分以外が黒になります。つまり、塗り漏れを発見しやすくなります。
あとはツールを使って埋めていきます。
[閉領域フィル]ツールオプション
塗り漏れ部分を範囲で捕らえて一度に埋めるのに使います。
大雑把に囲むと、囲んだ範囲内にある塗漏れをまとめて描画色で塗りつぶします。
[塗りのばしフィル]ツールオプション
塗り漏れを部分的に捕らえて塗りを延長するように使います。
[塗りのばしフィル]ツールは描画色を選択する必要はありません。
文字通り、クリックした位置の色を延ばして修正します。
必要部分を全てペイント出来たら、今度はその外回り部分もよく見てください。ここにも注意を払う部分があります。
ペイント部分の色トレス線は先程の[含み塗り]で塗られますが、外側にはみ出した部分は残ってしまいます。その都度、[ゴミ取り]ツールで除去してもよいですが、[バッチパレット]にこれらの色を除去するパターンを作っておいて、最後にまとめて処理するのも手間が掛からずよいかもしれません。
※[色置換]の機能を使って、赤や青などの色トレス線で使用する色をすべて白に変換するバッチです。
現場でもこのような[バッチパレット]のパターンを幾つも作って、使い分けながら作業効率を高めています。
(5)さらにもうひと手間加えてクオリティアップ
さて、見事にペイントが出来ました、まずこのままでも十分です。
でも、最後にちょっと手を加えるだけで、キャラクターがぐっと良くなることが有ります。前回、トレース修正の中で「目が命」とお話した時に、「ハイライト等はペイント時に修正した方が分かりやすい」という所です。
左がトレースのデータをそのままペイントしたもの、右は更に目の周り等に修正を加えたものです。眉の潰れを少なくし、瞳の輪郭を整え、瞳孔、ハイライトの大きさを修正してあります。
よく問題になるのが[目切り線]の色トレスを肌、白目のどちらで含み塗りするかということです。作品によっては作画注意事項でどちらよりに線を切るか決めている場合もありますが、実際にはなかなかうまく表現されていません。アナログ時代なら色トレスを入れる段階でトレーサーが修正を加えながら引いていましたが、デジタルではペイントした後でも修正が効くので、ペインターの感覚がものを言います。
ペインターが絵を修正してはいけないということはありません。ここはひとつ、自分の感性を生かしてより良いものに仕上げましょう。
左がトレースデータそのままのもの、右が先程の修正を加えたものです。わずかな差しか無いかも知れませんが、これらの積み重ねがより良い作品作りに繋がっていきます。
(6)ちょっと一手間で能率アップ
ペイント作業を始める時、まずはサブパレットに必要なデータを呼び出しますが、カット内容によってはすぐに[現在の画像を登録]に切り替えて、以降はそこから色を拾いつつ作業を進めていく場合が多いと思います。実際、絵を追っていった方が間違いも少なくなりますし、同じ部分から色を拾うので手元の迷いも少なくなります。
でも、全ての色が拾い易い絵ばかりをペイントしている訳ではありませんね。そんな時は主要なセルに直接拾いにくい色を落としておくと便利です。もちろん、最後に消去するのを忘れないで下さい。
(7)今だから出来るこんなこと
[PaintMan]になって一番大きなメリットは色の置換が難なく出来るということです。
極端な場合、こんなことが出来ます。
ドアの色指定を一々出すのは面倒なので、とりあえず原色の構成で塗ってしまい、[バッチパレット]の色置換で後から一気にドア色に変換してしまう。さらに、マイルールを決めていて、キャラクターごと全て原色構成で塗ってしまってから色置換する人もいます。もちろん、各設定の色変換は予め[バッチパレット]に登録してあります。
「これ、目が痛くならない?」と思わず聞かずにはいられないくらいの画面ですが、「慣れれば大丈夫だし、塗り部分同士がくっきりするのでかえって塗り易い。」とのこと。工夫次第で何とでもなるという事ですね。
もうひとつ[PaintMan]になって便利さを実感しているのが、絵が拡大出来ることです。中にはこの特性を生かして[カラーロケーター]でペイント作業をする人もいます。
「これで絵が分かるのか?」と思うくらい寄った絵で作業するのですが、「全体像は最初に見て把握しているので大丈夫、慣れればこちらの方かはるかにペイントし易い。」とのこと。人それぞれだなあ、と感心してしまうことが結構あります。
(8)作業効率を上げるには?
このように日々創意工夫していてもなお、常に現場に求められるのが「如何に短時間にたくさん塗れるか」ということです。よくある質問の中でもダントツなのが「一日に何枚塗れますか?」ですが、アナログからデジタルに移行した今ではさらに、これに明確に答えることは難しいでしょう。
アナログ時代は物理的に無理なためペイントに一定の塗り方があり、作業手順にも頭打ちなところがありました。
アナログは左から大体、こんな順番です。まず目の周りです、細かい部分を抜いて塗る人はまずいません。次に色の濃い面積の少ないパートから塗ります。当然、影の部分が先行します。絵の具は隙間をなくすために重ね塗りをします。薄い色に濃い色が重なると、透けて影が出る場合があるからです。最後に肌です、この時は目や眉は気にせず一気に塗ります、その方が色ムラになりません。作業工程にも順序があり、セルが50枚なら①の工程を50枚分やってから次に②の工程を50枚分、これを⑥の工程まで繰り返さなければなりません。なぜって、色を塗ったら絵の具が乾くのを待たなければなりませんでしたから。塗り面積がいちばん多い肌が最後と言うのにはそういった理由もありました。
「色が透ける」、「色ムラ」ってなに?デジタル時代の人には聞き慣れない言葉ですね。でも実際、当時は絵の具の溶き方ひとつで背景が透けてしまう塗りあがりになることや、××番系の絵の具は扱いが難しく手早く塗らないと塗った部分にムラが出るとか、○○番系の絵の具はすぐ腐るとか大変でした。そんな絵の具を200本近く相手にしているのですから、余程手際よく段取りを組まないと仕事の効率は上がりませんでした。
当時は早く塗れる人の絵の具の配置や溶き具合、机周りやセルの塗り手順など、隙を見てそのテクニックを盗み見したりしていました。
また余談でしたね。デジタル時代の今、このような煩わしさからは開放されているので、人により作業手順は千差万別の状態になっています。絵の具の乾き待ちの必要が無いので一枚ずつ仕上げることも出来ますし、どの部分から塗っても手に絵の具は付きません、それこそ自由なスタイルで作業できます。手順は人の数ほどあるので一概にこれが最良という方法は存在しないでしょう。それでもアナログ時代の手順を継承している人もいます。前者ならファイルを開く回数 が少なくて済みますし、後者なら絵を追って作業するのでより良く動画の質を判断出来ますし、細かな部分の色パカを事前に防げたりします。
月並みですが、要は道具を使いこなすということです。使いこなすには場数を踏むしかありません、そこから自分に最良の方法を常に模索し、発見する。その経験とデータの蓄積が早さにつながります。
みなさんもこの[RETAS STUDIO]をどんどん使ってよい作品を作ってください。
それでは短い間ではありましたが、乱文、乱筆な連載にお付き合い頂きありがとうございました。
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