第2回 自分で描いた絵が動くのって、かなり楽しい。
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(1)おかげさまで忙しく......
前回から2週間、みなさんいかがお過ごしでしょうか。「アニメ雑誌のスタッフがアニメを作ってみる」無謀企画のレポートであるこの記事も第2回。『アニメーションノート』本誌は12月の発売から次の3月までのちょっとお休み期間だったのですが、筆者を含めスタッフの方はなにかと忙しくしていました。去年出た映画『スカイ・クロラ~The Sky Crowlers~』関連の書籍の第2弾の制作でてんてこまいしていたのです。
いやアニメを作る準備が進んでいない言い訳じゃないですよ?雑誌のなかの記事として製作現場を取材するのも面白いですが、ひとつの作品だけをじっくり取材していくのは、より細かな部分にまで話が及んで実にためになります。今回の『スカイ~』本では、特殊効果などの映像処理や3DCGの部分を中心に取材をしたのですが、いずれこの取材の知識が役に立つ日がくるといいですねえ......(遠い目)。
第2回では、実際に編集スタッフがアニメ作りに挑戦する前に、筆者が「RETAS STUDIO」に習熟(というほどはしていませんけど)していく過程と、まずはできあがってきた脚本をご紹介します。
(2)[Stylos]練習中!レイアウトを描く
前回は、「まずは描いてみる」ということで、一枚だけ絵を描いてみましたが、もちろん「RETAS STUDIO」はアニメ作りのためのソフトですから、絵が一枚だけではいけません。......いやいけないこともないのかもしれないですが、とにかくもっと「絵が動く」ようにしてみましょう。
今回もガイドブックに沿って作業手順を進めていきます。アニメーション製作工程の内、[Stylos]の中では、
・レイアウト
・原画
・動画
までの作業を行うことができます。
まずはレイアウトから。レイアウトというのは、そのカットで、画面内にどんなものがどんな配置で映っていて、だいたいどんな風に動くのか、などが描かれています。要はアニメの画面の設計図にもあたるわけです。この段階ではキャラクターと背景はセットで描かれています。
というわけで描いてみたのがこれ。
レイアウト1
レイアウト2
本当は背景があるべきなのですが、ここでは端折っています。「女の子が指をこっちに突き出す」というカット内容だというのがわかるでしょうか。レイアウトは1枚だけで描くこともありますし、例のように動きがある場合などは複数枚が描かれることもあります。特にカットの最初と最後で画面の内容が大きく変わるような場合には1枚では済みません。
(3)[Stylos]練習中!タイムシートを書く
レイアウトができたら、それをもとに原画を描きますが、その前にすることがあります。原画はガイドブックにあるとおり、最終的に画面に映る素材である動画のキーになる部分だけを描いたものです。この「女の子が指をこっちに突き出す」カットでは、7枚の原画を用意することにしました。この枚数はどのように決めたらいいのでしょう。そのためには、このカットが何秒間のカットなのかが分かっている必要があります。
そうした秒数を決めるのに必要なのがタイムシートです。このシートを埋めていく過程で、必要な原画の枚数と最終的に描かれる動画の枚数が分かってきます。このカットでは、女の子の身体の動きをAセルとして5枚。動き出す前に瞬きする目をBセルとして2枚の原画を描くことに決めました。これでようやく原画に取りかかれます。
タイムシート
(4)[Stylos]練習中!原画を描く1
今回の「女の子が指をこっちに突き出す」カットでは、あえて動きが大きめのアクションにしてみました。そうしたのには理由があります。動きが大きいと、途中で絵が崩れても分かりづらいのです。絵の最初と最後で、手の大きさや位置、顔の大きさも変わっているのがわかるでしょうか。このくらい変化が大きければ、途中の原画や動画で絵がおかしくなってもばれにくい......気がします。ゆっくりした小さな動きほど、途中の絵が変だとばれやすいのです。
筆者の上手でない絵では「全部変じゃん!」と言われておしまいのような気がしますが、少しでも変な点を減らすための涙ぐましい工夫なのです。まずは動かすこと。「変なところ」を直していくのは後から。そのくらいの気持ちで進めていかないと、完璧主義では疲れちゃいますからね。
原画
(5)[Stylos]練習中!原画を描く2
原画はあくまで動画の前の段階ですから、この段階であまり完璧なものを目指すのは最初からあきらめておきます。――と自分を納得させつつ、原画を描く段階での細かな「豆知識」。はみ出したところは気にしない。
これはベクターで線を引いている場合ですが(筆者はデジタルの特性を生かしやすいようにベクターを中心に作業を進めています)、はみ出したところは[消しゴム]ツールの[交点まで削除]機能できれいに処理できますので、はみ出しはあまり気にしないで、線の勢いを大事にしましょう。
実際に使ってみた感想ですが、タブレットでは手の動きがもたつくと、生の画材(えんぴつ)以上に引く線に影響が出ます。生き生きした線が引けるように、はみ出しは気にせずどんどん行った方がよさそうです。この豆知識は動画の時にも適用できそうですね。
原画を描く段階では、線のはみ出しはあまり気にせずに進めます
(6)[Stylos]練習中!原画だけで動かしてみる
というわけで、Aセル5枚、Bセル2枚。計7枚の原画がなんとかできあがりました。[Stylos]には、描いたものはレイアウトでも原画でも、もちろん動画でも動きをチェックする機能(※)がありますから、それを使って描きあがった原画だけでも動かしてみます。さらには、この段階でAdobe FLASH形式で動画データを吐き出すことができるようにもなっています。これは、「RETAS STUDIO」を持っていない人にも、動きを見てもらえるので便利そうですね。
一応ここで女の子のアクションについて簡単に説明など。
[Aセル1枚目]
基本の位置です。
[Bセル1枚目]
[Bセル2枚目]
瞬きを一回します。
[Aセル2枚目]
最初の一枚から手が動き出すアクションに入るところで、反動をつけるために手が背後に少し下がっています。3枚目以降、目はAセルに描き込みます。Bセルはカラセル扱いで表示されません。
[Aセル3枚目]
指を突き出す動作の途中です。
[Aセル4枚目]
指を突き出した勢いで、最終的に指が止まる位置からちょっと行き過ぎています。実はその勢いで髪の毛もちょっとふくらんでいますが、筆者の絵ではわかろうはずもありません。
[Aセル5枚目]
最後の一枚。ここで指が止まります。
原画のモーションチェック
......はあ、はあ、はあ。ここで筆者は力尽きました。
動画を作るのは次回にまわします。時間はだいぶかかってしまいましたが、自分が描いた絵が動くのはかなり楽しいですね。次回では手描きの動画を扱う[TraceMan]も試したいと思っていますが、紙に描いたらもうちょっと速く描けるかしら?
※豆知識:タイムシートからのモーションチェックについて
タイムシートの機能にもモーションチェックはついています。これを使うと、複数のセルにまたがって絵が描かれているカットの場合でも、すべてのセルを重ねた状態でチェックができるのですが、動画なら動画、原画なら原画のチェックをすることしかできません。これはそれぞれ、動画と原画が別のフォルダに格納されているためなのですが、逆にそれら素材をひとつのフォルダにまとめれば原画と動画を重ねた状態でのモーションチェックができます。
(7)さて脚本があがってきました
もちろんこんな練習をしているのは、『アニメーションノート』謹製オリジナルアニメを作るためです。そのためにはまずは脚本。完成した脚本はこちらに――。
......なんだか、10秒には収まらないような気がしますが気にしないで進めます。もちろん、脚本を書くにあたっても、多分画作りが楽になる書き方というのはきっとあるはずなのです。そういう脚本にしておけば、あとでスタッフが原画や動画を描くときに余計な苦労をしないですむでしょう。
しかし!どういう脚本が作画に負担が少ないのか、それがわかるくらいならもうプロの脚本家です。我々「知識だけは一人前」のスタッフとしては、楽に流れずあるがまま、思うがままに「まずは作ってみる」の精神で、この脚本で突き進んでみようと思うのです。そしてこの先、この脚本をもとに絵コンテが描かれます。
次回ではその絵コンテも紹介できるでしょう。果たしてどんな絵コンテができあがるのか、乞うご期待!......きっと「プロってやっぱりすごかったんだなあ」と思い知ることになる気がするのは、多分筆者だけではないと思います。
つづく!
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