第5回 [CoreRETAS]に挑戦!?
閲覧数 : 2127回 総合評価 : 0件
(1)自分の本でガマの油
ガマの油って知っています?「万能の塗り薬」としてその昔は露天で売っていたものです。なんでガマの油かっていうと、ガマガエルの目の前に鏡を置くと、自分の姿に脂汗をだらだら流す......それを塗り薬にした、ということらしいのですな(実際にはガマガエルの油ではないそうですが)。
筆者にとって鏡に当たるのが先日発売されたばかりの『アニメーション映画の演出術』という書籍。映画『スカイ・クロラ』の映像製作の現場をレポートしている本なのですが、こんなすごい映像についての本を作っておいて(私がひとりで作ったわけではないですが)、こんなアニメ作っていていいのか?と本を見ながらだらだら脂汗を流している、という次第。
使っている道具は(根本的には)同じもののはずなのに、このレベルの差......。いつかはガマの油を作らなくてもいいくらいの映像を筆者らも作れるでしょうかね。
(2)挑戦はしてみたんだ、挑戦は
RETAS STUDIOというこの一連のソフト群の中軸になっているのが、同じ「RETAS」という名を冠された、[CoreRETAS]というソフト。これまで[Stylos]や[TraceMan]、[PaintMan]で作ってきた各種素材を、「撮影」するためのソフトです。
これまでは動画をモーションチェックで見ることはできましたが、あくまでもデータとしてはばらばらの絵に過ぎませんでした。しかし[CoreRETAS]では、これらの静止画をひとつの動画データとしてまとめることができるわけです。また、撮影というからには実際のカメラ撮影でできることもできてしまうわけです。クローズアップしていったり、パンしたり......。
ある意味で、ユーザにとって一番馴染みのないジャンルのソフトが[CoreRETAS]だと言えるかもしれませんね。ペンを握って絵を描いたことはあっても、その絵を動いて見えるように撮影した経験のある人はまずいないはずですから。
ええと、つまり筆者もそういう経験はない、ということを言いたいわけです。
せっかく1カットでも素材があるのだから、ぜひ撮影してみたいと思ったのですが、その辺はまたセルシスさんでレクチャーを受けてからにします。
――と、タイトルの「挑戦」は[CoreRETAS]に挑戦した、という意味でもあるのですが、我が『アニメーションノート』のスタッフが「挑戦」してみた動画の話でもあるのです。
第3回に掲載した絵コンテから、手描きの動画([TraceMan]でのスキャン)とデジタルの動画にそれぞれ挑戦してみたわけですが、手描き動画については前回掲載したので、今回はデジタルの方がどうなったか、を紹介します。
(3)鞄を投げろ
手描きの原動画もなかなか苦戦したわけですが、デジタルはスタッフが初めて触れる「タブレット+スタイラスペン」だったこともあって、さらに大苦戦。並行して同じだけの時間を使って、1カット完成させることができませんでした。
あー。
リアルなレポートをお送りするのがこの記事のテーマとはいえ、ちょっとあんまりなアレなので......正直、掲載をちょっとだけ考えました。ちょっとだけですが。
というわけで見てもらいましょう。
デジタル作画に挑戦したカットは、C-15。まずは、そのカット内容から。
なにやらはっと気がついたヒロインが、手にしていた鞄をふりあげ、ぶん投げる――そんなカットです。
(4)だいぶ苦戦してしまいましたよ
ではその内容をもとに描いた原画を見てみましょう。
1枚目、2枚目は思ったよりキャラ表(キャラクターデザイン画)に似ていますね。しかし3枚目............。
1枚目、2枚目を描くのにだいぶ時間がかかったので、3枚目は別のスタッフに「やってみる?」とふったのですが、そしたらこれが......。
いや、やっぱり慣れない道具は使いづらいようです。おそらくデジタル作画だから、というよりは「ナイフとフォークしか使ったことのないひとが、箸で湯豆腐を食べる」的な理由でしょう。実際、筆者自身何度か[Stylos]に挑戦するうち、徐々に描けるようになってきていますから。
さすがにプロや時間を自由に使える学生さんと違って練習の時間がなかなかとれないので、一足飛びに上手くなることができないのですが。
(5)だいぶ手慣れてきました
前ページの原画は、初めてデジタル作画に触れたスタッフの描いたもので、作業の所要時間はふたりがかりで5時間ほどかかっています。
第1回に掲載した筆者の絵などはもっとかかっていますから、背後に筆者がついてソフトの機能のレクチャーをしながらといっても、けっこう速い方かもしれません。
とはいえ、先にも書いたとおり、何度も繰り返してやっていれば身体が慣れてくるものです。どのくらい慣れるものかを、実際に同じカットを筆者ひとりでやり直してみました。
同じく3枚の原画です。当初の予定では鞄を投げ終わる動作までで1カット、と考えていましたが、ちょっと予定を変更して持っている鞄を振りかぶるところまででカット終了とします。
余談ではありますが、ここでカットを切ることで、次の主人公に鞄がぶつかるカットのスピード感が上がるのではないかと思ったための変更です。別に楽をしたいからということではありません。ええありません。
――話を戻して。
キャラクターは似ていませんし、まあ「上手い」というにはずいぶんと問題のある原画ではありますが、前掲のものと較べて、線がだいぶ手慣れてきているのがわかるでしょうか。なによりはっきり差が出ているのは作業時間です。筆者は90分ほどで、この3枚の原画を描き終えています(どうも風邪をひいたらしく、ファミレスで鼻水をすすりながら、です)。
(6)早い作業はよい作業
上手下手はともかくとして、なんとなく希望がもてる話ではありませんか?
だって早く描き終われば、残った時間で次のカットへ作業を進めるもよし、このカットをもっとマシに見えるように修正してみてもよし。
さすがに5時間からみっちり作業した後だと、「もう今日はおしまい!」という気分になってしまいそうです。けれど、90分しか経っていないんですから、まだ作業に飽きるには早すぎるというものです。
この調子でがんばれば、全15カットのこのオリジナル映像の原画作業を完遂することも夢ではない気がしてきます。いや正直、絵コンテがあがってきたときには「本当に完成するのかしら、これ」と心配になったものですが......。
......いやいや、まだ安心するのは早いですね。
ここまで作画してきたのは、絵コンテの中でも簡単そうなカットを選んだわけで、作画が大変そうなカットがまだ13カットも残っていますし、原画のあとは動画、さらに彩色、そして撮影もしなければなりません。
このあとも緊迫の展開が続きます――?
絵コンテ:ひよこ舎O
カット15原画:みかた
カット15動画:ひよこ舎O
その他いろいろ:田中桂
コメント