第8回 カメラマン気分ですよ
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(1)インタビューは疲れます
ゴールデンウィークとやらも、終わったようですね。
筆者はずーっと仕事していたので、なんの実感もないのでした。まあ、特に連休だからといって、やりたいこともなかったので、仕事が詰まっているのは出掛けない良い口実でしたが。
さて、『アニメーションノート』という雑誌は、アニメーション制作の様子を記事にしてお伝えしているのは皆さんご存じなわけですが(なにご存じない?そりゃあいけない。早くリアル本屋とかネット本屋とかに行った方がいいですよ!)、そこでどうしても避けて通れないのがインタビュー。これがなかなか大変な仕事なのです。
出掛けていって話を聞くだけなんだから、そんなに大変じゃないだろう?いやいやいや。
インタビューはただ話を聞くだけ、というわけにはいきません。なにしろ聞いた話を記事にしなければいけないのですから、取材相手と話をしながらも、頭の中は「今聞いた言葉をどう記事にすればいいか」、「進行中の話をどんな話題へ落とし込めばいいか」、そしてもちろん取材相手に機嫌良く話してもらえるように、言葉や話題を選びながら......さらには取材時間の制限もあります(みなさんお忙しい人ですから)。
常に3つくらいのことを平行して考えながら喋るというのは、やってみればわかりますが、これはなかなか大変なのですよ。
『アニメーションノート』で初めて本格的にインタビューというものを始めて筆者は3年くらい経ちますが、未だに慣れません。連休前には1日で4人の方にインタビューしましたが、さすがにへとへとになりました......はあ。
ついでに言えば、それで終わりじゃありませんからね。聞いた話を記事にまとめなけりゃなりません。
......世間のインタビューが得意なライターさんは、どんな脳をしているんでしょ。
筆者がインタビューの時にいつも使っている音楽用レコーダー。
(2)かつてアニメは撮影台の上に絵を置いて......
余談はさておき本題に入りましょう。
今回は、絵コンテのカットを作っていく作業を進める前に、一度カメラワークの基礎を確認してみることにします。使うのはもちろん[CoreRETAS]です。
多少練習しておかないと、ここから先は何ともならんなあ、という感じがしてきたので、やや足踏みではありますが、急がば回れ、という言葉もあるのです。
[CoreRETAS]は撮影をするソフトなのですが、実際には複数の画像データを合成しているわけです。ではなんで「撮影」と呼んでいるかといえば、かつてアニメーションはセルや背景など実物の絵を台の上に並べてカメラで撮影していたわけです。その流れからプロの現場が(ほぼ)すべてデジタル化した今でも、「撮影」という言葉がそのまま使われているということなのです。
[CoreRETAS]では、その撮影の手法をソフト上で再現しています。
例えばどんなところか、というと......。
[CoreRETAS]には[ステージ]ウィンドウというウィンドウがあります。
これは昔でいえば撮影台にあたるわけで、この上に絵がのっかっています。昔であれば、この撮影台の上の絵(セル)をとっかえひっかえ、1コマずつ撮影していきました。前回のように背景だけ引くような場合は、カメラは動かずに、絵(背景)の方だけ撮影台の上で引っ張って動かしていたのです。
感覚として、[CoreRETAS]の[ステージ]ウィンドウでは、これと同じようなことができます。
今回用意したセルと背景。一応新規に描き起こしです。
(3)[ステージ]ウィンドウとタイムシートとほかのウィンドウ
黒バックに絵が表示されているのが[ステージ]ウィンドウです。すでに背景とセルが重なっていますね。赤い枠は、現在カメラがとらえている画面の見える範囲です。つまり実際の動画ではこの赤い枠の内側だけが見えるわけです。
いま「現在」、と言いましたが、赤い枠は同じ[ステージ]ウィンドウのフレーム(絵のすぐ上の横にスクロールするバーとその隣の数字がそれです)と連動しています。
フレームで、カット内のコマ数を決めて、赤い枠をそのコマで見えて欲しい場所に移動しておけば、それでカメラ位置が決定されるわけです、基本的には。
実際には、タイムシート上のすべてのコマに赤い枠の位置が記入されている必要があるのですが、これは[CoreRETAS]上ではある程度自動化できます。
ガイドブックにもありますが、キーになるコマ(フレーム)をふたつ......つまりカメラの動きの最初と最後ということです......を決めて、あとは中割りをすれば、自動で数値を記入していってくれます。
タイムシート上では赤い枠のX座標、Y座標、そしてズームアップしたときの座標などをそれぞれ切り替えて表示することができます。......切り替えないと見えないので、慣れないとちょっとわかりづらいですが、これ以上表示の効率化もできなさそうですから、使う側で慣れていきましょう。
(4)最初は単純に
最初と最後、ふたつのキーになるコマ、キーフレームを設定して、中割りしてみます。
最初は単純に、絵の右下から、左上まで赤い枠(見える範囲)が移動していくだけの動きです。
おお、こういう感じの画面、アニメでありますよね。
これが俗にPANと呼ばれるカメラワークです。
(本来はカメラが首を振る動作のことをいうので、こうした2Dアニメで使われるPANは厳密には違う動作なのですが)
やあ、これで今回の記事は完了だな!
......というのもあまりにさみしいし、なによりカメラワークの基本はPANだけではありません。もっといろいろ試してみましょう。
(5)速度を変える
最初の動画では、カメラは一定の速度で動いただけですが、[CoreRETAS]では、カメラの動きはスイッチひとつでいろいろ変更できます。
徐々に加速させていったり、逆に減速させたり、加速から減速に移ったり......。こんな感じに手で動かすのはきっと大変だったでしょうね。でも、今はソフト上でできてしまいます。これがデジタルのいいところ。では、ちょっと速度を変えた版を見てみましょう。
――ちょっと印象が変わりましたよね。
途中でカメラを止めてみたり、また動かしてみたりすれば、それだけで「やだ、ちょっとどこ見てんのよ!」的なドラマがつくれそうです。
だんだん楽しくなってきました。
(6)途中からズームアップ
さてPAN以外で、有名なカメラワーク(?)といえば、ズームアップですね。
アニメーションの制作現場ではT.U(トラックアップ)と言われます。逆にカメラがズームアウトしていくのはT.B(トラックバック)。
というわけで、いったんヒロインの顔まで動いたカメラが、そこからズームアップする、というカメラワークに挑戦します。
今度はカメラの動きのキーになるコマ(キーフレーム)がもう1カ所増えます。顔までのPANのキーフレーム、そしてT.Uのキーフレームです。それぞれを[ステージ]ウィンドウの上で設定、さらに中割りしてみたのが次の動画です。
おお、だいぶそれっぽくなってきました。さらにちょっと微調整してみましょうか。この調整だけでもかなり楽しめそうです。
もちろん、映像作品を完成させるのが一番の目標ですが、仕事でやっているならいざ知らず......いえ、仕事でやっている人ほど、ひとつひとつの作業に何らかの楽しみを見い出しているはず。
でないと毎日毎日、ただ画面に向かっているなんてつまらないですからね。絵を描くのも楽しいですが、こうやって撮影するのも予想以上に楽しいです。
(7)今回はここまで
ちょっとカメラの動きを微調整。T.Uが急すぎると感じたので、最後のカメラの動きを減速で設定して中割りし直してみました。
どうでしょう。
最初のただ下から上へカメラが動く映像よりも、だいぶドラマっぽくなってきました。
これなら、次回絵コンテのカット作りに挑んでいけそうです。
そんなわけで、また次回!
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