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第11回 日本アニメの得意技に挑戦?

提供者 : セルシス    更新日 : 2015/06/30   
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(1)取材

世間はすっかり梅雨ですが、この記事を書いている今は降ったり止んだりで、しっとりじっとりという気候でもありません。どうも、梅雨らしい梅雨が最近来ていないような気がしますが、これも温暖化とかのせい?と根拠薄弱なことを書いてみました。

そんな6月末には『アニメーションノート』14号が店頭に並んでいるはずです。今回もいろいろなアニメーション作品のメイキングを紹介していますので、ぜひお手にとってご覧下さい。

今回筆者が取材した中では、監督自ら絵コンテについて詳しく解説してくださったり、演出家を目指す人にはうらやましがられそうな取材もありました。雑誌記事のためだけにお話しを伺うのは本当にもったいない。いつも取材先ではそう思わされます。
もちろん、その取材で聞いたあれやこれやが間接的にこの記事の制作にも役に立っているのです。

あと......実は筆者も7月に小説を上梓させていただく予定です。あまり宣伝めいたことになってもしょうがないので、もし興味のある方がいらっしゃったら検索してみて下さいませ。久々の小説でちょっと緊張しました。雑誌の記事を書くのとどっちが大変、ということはないんですけどね。

 

(2)合成問題 解決編!

どうにかして主人公の目の中に、ヒロインのアップを映り込ませたい
そのためには合成だ。
......けど、合成ってどうやったらいいんだろう

というのが前回のあらすじでありました。

実は前回同様、ちょっと横着してセルシスさんにレクチャーを(メールで)していただきました。ところが、それでもまだよくわからない。

同じようにやっているつもりなのに、なんでうまくいかないんだろう」

なんか、どこにでもありそうな悩みですね。
実は問題の解決法は、その「どこにでもありそうな」ところにありました。

マニュアルを最初から読むことにしたのです!
(はい、みなさん。ここ笑うところですよ)

 

(3)基礎というのはやっぱり大事

うまく合成ができなくて困り果てた私は、あらためてマニュアルを一から読み直してみることにしました。本当に頭から、はじめからです。
今までは、必要な機能に関連するところを目次で探して、そのページだけを拾い読みしていたんですが、それでは「マニュアル通りにやっているつもり」でもどうしてもうまくいかない。

そこであらためて、最初のページから横着せずに順に読んでいったのですが、そうすることで、なんでできないのかが分かったのです。

ソフト(ここでは[CoreRETAS])の機能や用語について、ごく基本的な部分の知識が筆者には欠けていたのです。
ガイドブックでは状況を限定しているために、端折って説明されている部分をまったく知らなかったわけです。その状態では、マニュアルを部分的に拾い読みしても、セルシスさんからレクチャーを受けても理解できないわけです。

もちろん、マニュアルなしでもうまくできてしまうこともあるでしょうが、やはり基本というかマニュアルに立ち返ってみるのは大事なことだなあと思った次第。
具体的に今回問題だったのは、「マスクレイヤーをつくる」という指示があったときに、画面上のどの命令を利用すればいいのか、その部分の知識が欠けていたせいだと分かりました。

 

(4)合成手順はこんな感じ

そんなわけで、どうにか理解できた合成の手順はこんな感じです。

マスク画像の作成→マスクレイヤー作成→合成

まずはマスク画像です。
今回の場合に限ってごく単純に言うと、マスク画像というのは、「指定した色で塗られている部分以外が見えなくなるようにマスクをかける」ための画像です。
通常は真っ黒と真っ白の2色のみで作られます(もっと特殊なこともできますがここでは割愛)。

今回は黒い部分がマスクされ、白い部分だけが画面に表示されるようにマスクします。つまり画像で白い丸になっている部分に、主人公の目がくるのです。
言い方を変えると「目の形にくりぬいたように、ヒロインの顔が表示される」ということになりますか。
そうです、このカットの場合、合成の対象になるのはヒロインの描いてあるセルレイヤーなのです。

 

(5)マスクレイヤーを作る

マスク画像ができたら、次はタイムシート上でマスクを取り扱うためのレイヤーを作ります。筆者はここでつまずいていましたので、いつもよりちょっと詳しく説明してみます。

まず、画面上部の[タイムシート]メニューから[レイヤー]→[挿入]の順に選んでいきます。

続いて表示されるダイアログ。
ここでは必ず[タップを挿入する]にチェックを入れておいて下さい。筆者はここでもつまずいています。
これをやっておかないと、マスクのためのセルレイヤーは、必ずほかのセルレイヤーとタップを連動しなければいけなくなってしまいます。これではマスクの位置を独自に調整したいときに不便極まりないことになります。

独自のタップを設定しておけば、マスクの位置だけを動かしたいときにも自由がきくわけです。筆者は途中この仕組みがわからずに、「どうしてもマスクの位置が必要なところに動かせない!」と悲鳴をあげていたというわけなのです。

マスク画像は、セルレイヤー[-BG]などの画像同様にセルバンクに登録しておきます。
今回はセルバンクの名前を「mask」として新たに作成しました。するとちゃんとタイムシートの方でもその名前で選択可能になるんですね。よくできています(......当たり前っていえば当たり前)。
セルレイヤー[mask]を選択したら、準備完了。

 

(6)マスクの右側のセルレイヤーを合成する

おっと、ひとつ準備を忘れていました
マスクレイヤーが合成の対象とするのは、今回使用した[合成マスク1]という機能を使う場合(他がどうなのかはまだちゃんと調べていません)、マスクレイヤーの一つ上のレイヤー(タイムシート上ではすぐ右のレイヤー)となります。

今回のカットの場合にはうまく目の形に切り抜いて(合成して)表示したいのはセルレイヤー[D]、ヒロインの顔が描いてあるレイヤーですから、マスクレイヤーはその左側に置いておけばいいわけです。

あとの取り扱いは、普通のセルレイヤーと基本は同じ。
[レイヤー設定]で[合成マスク1]と[白透過]を選択しておけばいいのです。

いろいろ気づいて、動画が完成するまでに3回くらいやり直していますが、気づいてしまえば、つまずいていたのはごくごく基本的なところでした。

 

(7)ここからは本誌と連動です

ここからは『アニメーションノート』14号の、『アニメ作ろうぜ』と連動したお話しです。

誌面では、C-16の制作を紹介していますが、こちらの記事では、誌面では伝えきれなかった細かなところと、印刷物ではそもそも不可能な「動いている完成品」を紹介したいと思います。

いつも筆者のあれな絵を使うのも、そろそろ皆さん飽きてきた頃だと思いますので、今回は思い切ってゲストアニメーターをお呼びしました。
『アニメーションノート』の姉妹紙、『コミックス・ドロウイング』では、『りりんらのお筆先紀行』で美麗なイラストを披露していた、イラストレーターのりりんらさんです。

......ちょっとりりんらさん、この画像カエルじゃないですか。え?これでいいんだって?そうですか、本人がカエルだと言い張るんなら仕方ないですね。
一枚の絵を描くことでは、プロフェッショナルのりりんらさんですが、絵を動かすということに関しては初心者です。果たしてうまく進められるんでしょうか。

 

(8)セル分割で上手に「動かそう」

今回りりんらさんに担当してもらったカットはC-16、主人公がヒロインに鞄をぶつけられるカットです。
凝ればどこまでも凝れそうなカットですが、ここはあえて、「最小限の労力で充分動いて見える」、日本のアニメの得意技の再現に挑戦してみることにしました。

最初のプランでは、実際に動くのはBGと鞄だけ。しかも鞄を別セルにして、撮影段階で「引く」ことで、動画1枚きりで動きを演出しようという作戦です。

本当は主人公はAセルのみで行く予定だったのですが、りりんらさんの「右手を鞄の手前に持ってきた方が立体感が出ますよね」という提案で、右手をCセルとして分割しました。

それにしてもさすがに本職。これまでの連載のあれな感じの絵とは比較になりません。
......どうせなら、顔が映るカットを担当してもらえばよかった、と思ったのは後の祭りでありました。

 

(9)さあ、動いて見えるかな

というわけで、一気に撮影。この一連の作業はすべて一晩の間で(しかもいつも通りファミレスで!)行われています。

タイムシートを見てもらえれば分かるとおり、「動いて」いるのはセルレイヤー[-BG]と[B](鞄)のみ
それぞれを異なった速度で横方向に動かしています。こういうのを、アニメーションでは「セルを引く」と言います。
今、本文では「動かす」と書いてしまいましたが、それは映像の中で動いて見える、ということで、アニメーションの制作の中で通常動かすといえば、中割りの動画を作る、という意味なのです。

また、「せっかくだから髪の毛も動かしたいです」というりりんらさんの要望で、セルレイヤー[A](主人公本体)は、髪の毛を3枚リピートで動かして(こちらは正しく動画があって動かして)います。

 

(10)完成はこんな感じ

というわけで、初めて挑戦したりりんらさんが一晩で完成させたカットはこちらです!

おお、動いて見えます。

『アニメーションノート』本誌で記事を読んでくれた人も、見てくれていますか!動画ではこんな感じなのです。最小限の絵の枚数でも、それなりに動きのある場面を作り出す。これは日本のアニメーションがこれまで得意としてきた技法です。

いまでは、たくさんの動画を潤沢に使っている作品も数多いですが、こうした省力化の技法は、そんな現場でも、一番必要な場面に、必要なだけの動画枚数を配分するべく効率的に用いられています。
また「引き」なら引きでしか表現できない演出上のニュアンスもありますから、その点で、こうした技法は単なる省力化、手抜きではないわけです。

さて、次回はいよいよ、この連載も最終回
なんといっても「アニメーションノートのアニメ」の制作はまだ道半ばではありますが、一区切りとして作ったカットを1本のまとまった映像にしてみたいと思います。

それではまた次回!

コメント
標下士太郎。 2016/05/02 13:23
背景の流れが逆の方が良いと思います。