第8回 「クチパク」編
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今回のSTYLOS作画は動画の中割の初歩中の初歩「クチパク」を練習しましょう。
こちらが、今回使用するサンプルデータです。
サンプルデータ
(1)原画の作成
まず、STYLOSを起動して、原画を作成していきます。
1.作画の準備
(1)ファイルブラウザの[新規カットフォルダ]ボタンをクリックし、カットフォルダ「練習-008-001-0001」を作成します。
[レイアウト]タブを表示し、右クリックメニューから[新規セル]を作成します。
新規セルの設定は以下の通りです。
(2)作成したセルを開き、[レイヤー]パレットの[新規レイヤー作成]ボタンから[ラスター下描きレイヤー]を追加します。
(3)[ツール]パレットで[ペン]ツールを選択し、[ツールオプション]パレットで下描き用に、少し太めで筆圧オンの設定に変更します。
2.ラフの描画
(1)まず、真正面の顔を描きます。始めは大ラフ画を描きます。
レイアウトの基本は見せたいものを画面の中心に置く
作画途中でレイアウト的なバランスを変更する為に[移動]ツールに切り替えて絵の配置を修正しています。
「クチパク」の練習なので、口元を画面の中心辺りになる様に移動させます。
(2)大ラフ画が出来たら、その絵を下描きにして少し丁寧なラフ画を[ベクター作画レイヤー]で描きます。
[ラスター下描きレイヤー]の[不透明度]を下げ、作業し易い薄さにします。
次に[ベクター作画レイヤー]を選択します。
先ほどの大ラフを参考に、ラフ画用に修正作画します。
(3)ラフ画が出来たら[ラスター下描きレイヤー]の表示をオフにします。
※[ラスター下描きレイヤー]を削除しても構いません。
(4)次にラフ画を元にクリーンアップ(清書)するのですが、先ほど清書用の[ベクター作画レイヤー]を使用しました。
そこでこの段階で[影指定作成]を実行します。
メニューの[セル]→[影指定作成]を実行するか、[ツール]パレットの[影指定作成]ボタンをクリックします。
これで、[ベクター作画レイヤー]の内容が[影指定レイヤー]に転写されます。
(5)[ベクター作画レイヤー]の内容は不要なので、削除します。
[レイヤー]パレットの[ベクター作画レイヤー]を選択します。
※または[ツール]パレットの[描画モード切り替え]ボタンで選択を切り替えることもできます。
(6)[編集]メニュー→[全てを選択]を実行し、続けて同メニューの[カット]を実行します。
(7)これで、清書の準備が整いました。[影指定]レイヤーはデフォルトで不透明度が50%表示なので、比較的に手間が省ける「裏技的」な操作です。[影指定]レイヤーへの転写は「原画レベル」でも利用価値が高いと思います。
3.ラフのクリーンアップ
(1)ここからはクリーンアップ段階なので、[ペン]ツールオプションで、線の太さを「3 pixel」(mm表示の場合は「0.50 mm」)として筆圧オフに設定します。
(2)真正面顔という前提なので左右対称にする為、[直線]ツールで縦のセンターラインを引きます。
[楕円]ツールを使って帽子を描きます。線が重なっても気にせず、[ペン]ツールや[曲線]ツールも駆使して片側だけ描きます。
不要なはみ出し部分とガイドの縦線は、[消しゴム]ツールの[交点まで削除]機能を使って消去します。
不要部分がなくなったら、片側部分を[投げ縄選択]ツールで[コピー]して[ペースト]します。
何も無いところまで移動してから[編集]→[変形]→[左右反転]して、位置調整してシンメトリー画像にします。
詳しくは以下の動画をご覧ください。
(3)更に、微調整と[色トレースプレーン]を使用して原画「A1」が完成です。
※今回の教材として[レイアウト]フォルダに作画の過程を段階的に保存してあるので参考にして下さい。
(4)最後に、原画の「閉じ口」部分(主線プレーンと赤色トレースプレーン)を選択、[カット]して、「B1」セルに[ペースト]します。
(2)タイムシートの作成
セリフを管理するには「タイムシート」を作成します。
セリフの内容はシンプルに「こんにちは」とします。
(1)[ファイルブラウザ]の[新規タイムシート]ボタンをクリックします。
(2)[新規タイムシート]ウィンドウで、下図の通りフレーム数を「1+0」にします。
作成された「タイムシート」を開きます。
(3)[台詞]欄にセリフ文字を日本語入力モードで入力します。カット頭に「間」を取って、開始位置は7フレーム目からにします。
「こんにちは」は5文字あるので、1文字3コマにする場合、7フレーム目から21フレーム目までドラッグします。
(4)[入力ボックス]にテキストを入力します。
[台詞]欄にテキストが表示されます。
(5)次は、タイムシートに台詞文字の母音を考慮した番号を入力します。
日本のTVアニメーションの多くは「閉じ口/中間口/開き口」の3枚で全ての発音を半ば強引に当て嵌めています。
「閉じ口」の主な用途(1)
台詞のない状態。「ん」。発音の前に一瞬閉じ口を使う例「ばびぶべぼ」、「ぱぴぷぺぽ」、「まみむめも」。
「中間口」の主な用途(2)
母音が「い」「う」「え」「お」
「開き口」の主な用途(3)
母音が「あ」「え」「お」
同じ母音が続く場合、口の形に変化を出す為に母音が「え」と「お」系は前後の文字によって使い分けます。
例:「歯科衛生士」を番号に置き換えると「2322222」となって中間口の連続となってクチパクしていない様に見える為、「2332322」または、もっと強引に「2323232」とします。
本来なら少なくとも閉じ口+(母音の数)5パターン欲しいところです。
ちなみにアメリカのTVアニメーションの場合は少なくとも「AELOUV」+「閉じ口」の7枚前後で表現している様です。
さて今回の練習では「こんにちは」を番号に置き換えて「41213」とします。
「に」と「ち」を描き分けるのは大変困難なので「に=2」「ち=1」にします。
「こ」は4番にしてあります。
タイムシートの原画側の「A」欄はカット一杯「1」を入力。(1フレーム目に「1」と入力すれば、それ以下は自動処理されます)
「B」欄は始めの「閉じ口(1)」の後、3コマ毎に「41213」+「閉じ口(1)」となります。
(6)書き出し後のCoreRETAS用のタイムシートを有効にする為に、[タイムシート]メニューから[動画番号の転記]を実行します。
原画番号から動画番号に転記されました。
タイムシートは[保存]して閉じます。
(3)クチパクの作画1
最初に描画した「閉じ口」以外の口を作画していきます。
(1)[ファイルブラウザ]の「B」レイヤーで、2~4を選択して、[メニュー表示]から[新規]→[セル]を実行します。
[新規セル]ダイアログはそのまま[OK]をクリックします。
「B」レイヤーにセルが追加されました。
(追加されたセルの内容が未作成でも、タイムシートに使用されている場合はセル番号が括弧付きになります)
(2)[ライトテーブル]パレットの[セット]を[練習セット]に切り替えます。
(セットの作成方法は、本講座第6回(1)を参照して下さい)
[ファイルブラウザ]の「A1」セルと「B1」セルを、[ライトテーブル]パレットの下のエリアにドラッグします。
(3)「B3」(開き口用)を開きます。[ライトテーブル]パレットのセットを「練習セット」にして[全体の不透明度]ボタンを選択し、不透明度を30%程度に変更します。
(4)「B1」の閉じ口を参考に開き口のラフ画を描きます。何色でも構いません。
(上唇の動きは少なく、下唇を大きく下げます。その分、口角を少し狭く描きます)
(5)先ほど同様に[影指定作成]を実行し[ベクター作画レイヤー]の[色トレースプレーン(赤)]を削除した状態です。
(6)[ライトテーブル]パレットの[原画/B/1]を非表示にして口の半分を描画します。
(7)描画で不要になる部分を[矩形選択]ツールオプション[選択範囲で切断]モードで選択します。
この時、一度で作業できるように[レイヤー]パレットで対象にするプレーン(主線と赤色トレース線)にチェックをおきます。
不要部分を選択したら、[編集]メニュー→[カット]を実行します。
(8)再び[矩形選択]ツールで残った半分の口形を囲い、メニューから[編集]→[コピー]を実行します。
更にメニューから[編集]→[ペースト]を実行します。([カット]した状態から、見た目には変化はありません)
(9)[矩形選択]ツールのまま、影響の無いところまでペースト内容を移動させます。
(10)[編集]メニュー→[変形]→[左右反転]を実行します。
反転したら[矩形選択]ツールオプションで「画像を移動させる」にチェックが入っている事を確認して下さい。
(11)左側の口半分にぴったり合う位置に移動させて、メニューの[編集]→[選択範囲を解除]を実行します。
(12)[影指定レイヤー]を削除して「B3」(開き口)が完成です。
(4)クチパクの作画2
(1)次は、「B1」と「B3」を[ライトテーブル]パレットに登録して「B2」の描画をします。
(2)「B2」は、単純に線の中割にします。「B1」と「B3」のちょうど間に来るように線を描画していきます。
(3)今回、最も描画力が必要となる「お」を表現した口の形を作成します。
口角をすぼめて縦長気味に表現します。(ちなみに、縦を短くすると「う」の表現になる)
クチパクの作画の資料として、以下の実写モデルの口の形を参考にして下さい。
(5)PaintManへの書き出し
PaintManで彩色する為にデータの書き出しをします。
(1)[ファイル]メニューから[書き出し]→[仕上げ]を実行します。
(2)[カットフォルダ書き出し]ダイアログが表示されます。
今回は原画で作画作業をしたので書き出しの[対象選択]は[原画]にチェックし、[設定]ボタンをクリックします。
(3)[原画の書き出し設定]ダイアログの[出力レイヤー]の項目では特別な理由が無い場合、[影指定]のみにチェクを入れます。
(4)[カットフォルダ書き出し]ダイアログに戻ったら、[オプション]の選択項目にチェックを入れて[OK]をクリックします。
プログレスバーが表示され、指定した場所にファイルが書き出されます。
これで、STYLOSは終了です。
(6)彩色
1.Aセルの彩色
次にPaintManを起動して、書き出したカットを彩色していきます。
(1)[ファイル]メニューから[開く]→[セル]を実行し、書き出されたフォルダ内のセルを開きます。
(2)次に、[カラー]パレットに「RGB」で色(ノーマル色)を作ります。
R G B
016,016,016 黒=目や眉
128,128,128 グレー=汎用
240,240,240 白=ハイライト/シャツ白
160,000,000 帽子/上着
183,170,000 髪の毛
242,209,195 肌色
220,016,016 赤鼻/口紅
242,176,210 頬紅
020,180,090 シャツ・ボーダー
000,104,183 ズボン
(3)次に影色を作ります。
前回はノーマル色の上に半透明の黒セルを被せて影色を表現しましたが、今回は、まず「RGB」でノーマル色を作り、その色の明度を減らし、各影色を設定します。
具体的には[カラー]パレットを「HSV」表示に切り替え、「V」を減らします。
例えば、肌色はRGBで「R=242,G=209,B=195」、HSVでは「H=18,S=19,V=95」となります。
この「V=95」を「V=65」に設定すると、同系色の自然な影色が出来ます。
たいていの場合、ノーマル色の「V」値から「30」前後の数値を引くと良いでしょう。
「30」前後の数値が引けない、元が小さい数値の場合、元の数値の半分くらいに設定します。
(4)色を塗る前にトレース線のチェックをして、問題があれば線修正を行います。
特に色トレースと別の色トレース線が交差して含み塗りが上手く行かない場合があります。
作例では頬紅(赤色トレース線)が肌の影領域(青色トレース線)まで入り込んでいるので修正が必要となります。
①頬紅の影部分を[ペン]ツールで繋ぎ変えます。
②[フィル]ツールで先に「頬紅の影色」を塗ります。この時、[含み塗り]のオプションは緑をチェックしておきます。
③[フィル]ツールオプションの[含み塗り(赤線、青線)」で「頬紅ノーマル色」を塗ります。
(5)同様の問題箇所として「シャツのボーダー色分けの影」があるので修正します。
(6)色塗りの基本的の順序は「影色優先塗り」です。
また、ハイライト塗りも優先塗りとなります。
下図のように、影色やハイライトを先に塗ってから、ノーマル色を彩色します。
このように、影色とノーマル色のどちらを先に塗るかを統一しておかないと、[含み塗り]の際、色トレース線が影色側に含まれたり、ノーマル色側に含まれたり、場所によって変わってきてしまいます。
すると、セルによって色トレース線の幅の分、影がずれる...という状態になってしまいます。
2.Bセルの彩色
(1)「B」セルをペイントします。
(2)色指定で口の中(舌と口内)を追加し、残りのセルも彩色します。
※今回の作例データは未ペイント状態のデータなので、彩色してから御利用下さい。
「練習-008-001-0001p」
(背景データは付けてあります)
これでPaintManの作業は終了です。
(7)コンポジット
CoreRETASを起動して、動画を書き出します。
本来ならば、STYLOS作画の段階で動画作業がしてあれば、CoreRETAS用のタイムシートを開くだけで、セルバンク登録まで(背景を除く)自動で行えるのですが、今回はセル素材を原画フォルダで作成した為、セルバンクの登録は手動となります。
また、Stylosでタイムシートの動画番号を転記した際、自動的にタイムシートのセル番号が昇順に整理されているのですが、今回は原画をそのまま使用した為、タイムシートに記載されているセル番号と実際のファイル名にずれが生じています。
そこで、新たに素材を追加した「-BG」レイヤーと、先の「B」レイヤーのセル番号も、この段階で改めて入力しなおします。
(1)まず、BG及び、各レイヤーの素材をセルバンクに登録します。
(2)[タイムシート]の「-BG」レイヤーのセル番号入力を手動で入力します。(全フレームに「1」)
(3)次に、「B」レイヤーのセル番号を、当初指定した「1412131」の順番になるように修正します。
(4)ステージのプレビューなどで、正しく画像が表示されていれば完成です。
後は、任意の形式で書き出します。
以下が今回の作例の完成ムービーです。
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