第1回 キャラクター・クリエイターの心得

提供者 : セルシス    更新日 : 2015/06/30   
閲覧数 : 14926回 総合評価 : 43件

[1]「絵が上手い」だけでは、漫画家になれない
[2]キャラクター=ヒットの鍵
[3]作画家が陥りやすい「ビジュアル偏重」
[4]漫画の良し悪しはネーム(下描き)の時点で決まる
[5]「完成」と「完成度」のジレンマ

[1]「絵が上手い」だけでは、漫画家になれない

僕は作画家ではないので、《絵の描き方》は教えることはできません。
しかしながら、《ヒットする漫画の描き方》は教えられます。

《漫画の描き方》ではなく、《ヒットする漫画の描き方》です。

僕はこれまで、劇画村塾という漫画家養成の私塾や、大学などで、40年近く「漫画の描き方」を教えてきました。
現在も「キャラクターマン講座」という講座を開講して、漫画の描き方を教えています。

ここで、「なぜ《絵の描き方》は教えられないのに、《漫画の描き方》は教えられるのか?と疑問に思う人もいるでしょう。
じつは、今から30年前、ある方から同じ質問を受けました。

「小池さんは、漫画原作者でしょ?漫画を描かないのに、どうしてたくさんの弟子を育てられるの?」

出版社のパーティーで、私にそう質問したのは《漫画の神様》手塚治虫先生でした。

僕はこう答えました。

「確かに、僕は絵を描かない原作者です。一人では漫画を完成させることはできませんから、これまで、いろんな漫画家さんと組んで作品を創ってきました。
そうすると、それぞれの漫画家さんの長所がよくわかります。
また、反対に他の漫画家さんに比べて足りない部分もよく見えてきます。
Aさんは魅力的なキャラクターを描くが、構成はまずいので、時々わからなくなって、ページを戻ったりさせられる。
Bさんは、キャラクターが魅力的ではないが、構成が上手くて、読んでいてストレスがない。
Cさんは、絵は上手いが、アクション・シーンが上手くない。
僕は多くの漫画家と組むことによって、漫画家さんの長所と短所が見えるのです。
だから、僕は弟子たちに、いろんな漫画家さんの長所を倣い、短所は真似しないように、と教えているのです」

そういうと、手塚先生は

「なるほど。そういうことですか。小池さんは活字の世界と漫画の世界を入ったり来たりする、コウモリのような人ですね」

と言って、笑っておられました。どういう意味かよくわかりませんが。

そうなんです。
漫画家ではなく、文字で漫画の設計図を創る、漫画原作者だからこそ、完成した作品の良し悪しがよくわかります。
想像を超える画が仕上がってくることもありますし、思ったような画にならなくて、残念な気持ちになることもあります。
漫画家の中には《絵は上手く描けるけれども、漫画が上手く描けていない》という人がいます。
漫画には、読者に伝えるための、セオリーがあるのですが、そのセオリーを上手く使えないと、どれだけ絵が上手くても、漫画としては失格、いわば漫画モドキになってしまいます。

では、そのセオリーとは何なのか。
それが「キャラクター」です。

僕はこの40年間、漫画の描き方を教えるのではなく、一貫して「キャラクターの起て方」「魅力的なキャラクターの創り方」を教えてきました。
漫画をヒットさせようと思ったら、決してストーリーから創ってはいけない。キャラクターから創るのです。
ストーリーから創るのは、短編の創り方ですが、短編では、漫画家として食えません。プロを目指すためには、魅力的なキャラクターを創ることからはじめるのです。
漫画家が最低限知って置かなければいけない、漫画を漫画たらしめる最低限のセオリーを、その最大の要素である「キャラクター」を中心に、お話ししてみようかと思います。

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[2]キャラクター=ヒットの鍵

漫画を描く時に、何が一番大切なのか。

それは《キャラクター》である、とずっと教えてきました。
僕が40年前に「漫画=キャラクター」と言い始めた頃は、まだ「キャラクター」という言葉も一般的ではありませんでしが、今日では「キャラクターが大事?そんなの当たり前じゃないですか」といった答えが帰ってくることが多くなりました。
漫画やアニメ、ゲームといったキャラクターコンテンツだけでなく、日常的に「キャラクター」という言葉が当たり前のように使われるようになっていますね。

このキャラクターとは、いろんな意味を持つ言葉です。もともとは、家畜の焼印などのことを指す言葉でしたが、刻印とか印象、特徴、性質、性格、個性と意味が変わってきて、やがては物語の登場人物を指すようにもなりました。
現在では、特定の物語を持たない人物や動物などのイラストもキャラクターと呼ばれています。

一貫して変わらない意味としては、要するに、《他と区別される特徴》や、《他と区別される存在》のことなのですが、意味が広がり過ぎたため、とらえどころのない言葉のようにも思えますし、発言する人とキャラクターとの関係性によっても、意味合いは変わってきます。
同じ創作者でも、キャラクターを《描く》人にとっては、視覚的な要素、見た目の占める要素が大きいでしょうし、逆に、漫画原作者や小説家にとっては、ビジュアル的なイメージよりも、「この人はこういう性格の人で、こんな時にこういった言動をする」といった、内面の個性を指すことが多いでしょう。

多くの人を惹きつける魅力的なキャラクターを創るには、ビジュアルと内面の両方に魅力が必要です。いわば、キャラクターの両輪なのです。
キャラクターが魅力的であれば、読者はキャラクターについてきます。
また魅了された読者は、とにかくキャラクターに会いたいので、「続きはまだか」「アニメ化しないのか」「ゲームは出ないのか」「小説化しないのか」「キャラクターグッズが欲しい」……と、さまざまなメディアに広がっていきます。
物語や作品の世界観も大事ですが、まずは、人の心を魅了する「キャラクター」です。
人を惹きつける魅力的なキャラクターを創り、キャラクターを動かして物語を創っていく。さらに、キャラクターをメディアに活用していく。
それが今も昔も変わらない、ヒットの法則なのです。

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[3]作画家が陥りやすい「ビジュアル偏重」

僕たち原作者は、自分の中のイメージを一旦文章にして、作画家に伝えて、画に描いてもらわなければなりません。キャラクターの内面はもちろん、外見も文字で伝えようとしますが、やはりビジュアル的なことを伝えるには文字だけでは限界を感じることがあります。
一方、漫画家は、キャラクターの精神世界をプロファイリングして創りあげ、そのイメージを視覚的に表現して、魅力的なキャラクターとして描くことが出来ます。
原作者は、自分のイメージをダイレクトに画に描ける漫画家がとても羨ましいのです。
ところが、漫画家になりたい人の中には、キャラクターのビジュアルを描くこと、外見を創りあげることに執心してしまい、キャラクターの内面の掘り下げ、人物造形といったことにまで手が回らない人が見られます。
大変、もったいないことです。

人間と同じく、キャラクターもまた、心と外見は一つ、姿と心は同一のものなのです。そして、漫画というものもまた、内面的な世界と、ビジュアル的な要素によって成り立っています。
これから漫画家を目指す人は、この両輪を我が物にできるようになってほしいと思います。漫画家は原作者の能力を兼ね備えていれば、それに越したことはありません。
自分の心の世界を、自分のキャラクターに託して、それを自分のビジュアルで描けるというのが、作品にとっても、キャラクターにとっても、一番いいことなのですから。

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[4]漫画の良し悪しはネーム(下描き)の時点で決まる

今、僕は「小池一夫のキャラクターマン講座」を開講しています。
その受講生のX君という人が、36ページの作品を一生懸命仕上げて、添削のために持って来ました。「昼間は働きながら、寝る間も惜しんで、2ヶ月かかって完成しました」というんですね。
添削する僕の方も「ほう、よーし、これは期待できそうだ!」と思って読み始めたのですが、冒頭の3、4ページあたりで、「ああ、残念」と思いました。

画には力が入っている。手もかかっている。作画技術は悪くない。

それはわかるのですが、構成が、漫画になっていない。漫画未満の漫画なのです。
読み進めるに従って、ストレスが増していく。何度もひっかかり、その都度ページを戻って確かめ直さなければならない。それでも頭の中に浮かぶ《?》の嵐。作者一人がわかっていて、読者には不親切だったりする。

画に力が入っているだけに、本当に残念なんです。

寝る間も惜しんで、2ヶ月かかって描いた入魂の力作。なのに、漫画になっていないのが、本当に惜しい。絵が素晴らしければ素晴らしいほど、残念な気持ちになってしまいます。

構成=(ネーム、下描き)は、漫画の設計図であり、いわば骨格です。
飛行機の設計図を思い浮かべてください。羽があり、エンジンがあり、尾翼があり、車輪があり……。航空力学に基いて、車輪とエンジンの出力、主翼がもたらす空気の流れによる浮揚力、尾翼による機体の安定など、離陸から飛行、着陸まで、じつに機能的に設計されています。
飛行機の骨格が歪んでいたり、翼の位置や、数がおかしかったら、いくら美しくても、飛行機はまともに飛びませんし、飛んだとしても、旅客の安全は保証できないでしょう。
漫画も、同じなのです。

物語がはじまり、主人公のキャラクターをどうやって印象付け、読者の心を掴めばよいのか。ライバルや敵のキャラクターはどうやってそれを邪魔し、引き回し役のキャラクターがどうやって立ち回りって、読者を物語の世界に引き込んでいくのか。何度かの盛り上がりがあり、その後に最大の盛り上がりがあり、事件は解決して、ラストに笑顔があり……。

言い換えれば、キャラクターをいかに動かして、読者という《人間》の心を動かし、揺さぶり、楽しませ、ドキドキさせ、悲しませ、安心させ、勇気づけ、喜ばせることができるのか。そのための緻密な設計図が、その構成(ネーム)の中に、ちゃんと機能する形で入っているのか。

さらに、作品の中のキャラクターたちも、それぞれの役割に応じたキャラクターの設定(設計図)を持っているのかということも重要です。(これについては、次回で話します)。
飛行機と同じように、漫画も機能的に設計することが大切なのです。

だからこそ、部品を組み立てる(ペン入れ)する前に、できるかぎり骨格(構成)を見直して、ちゃんと「漫画の形になっているか」、もっといえば、「人の心を動かせる漫画の形になっているか」を確認す必要があるのです。
もちろん、早く作品を完成させたい、ペン入れしたいというのはわかります。
でも、もう少しだけ、その作品を読む読者の気持ちになって、ネームを見直し、漫画として成り立っているか、つっかえるところがないか、構成を確かめましょう。また、可能ならば、友だちなどに読んでもらいましょう。

さて、件の受講者に、僕はこう言いました。
「画はとてもよく描けている。ただ、構成にわかりにくいところがあるから、次の作品では、ネームの時点で見せてくれるかな」と。

でも、これが命を預かる飛行機の設計者なら、こうはいきません。指導者はもっと厳しことを言うでしょう。

「君の創った飛行機は、人を乗せて飛ぶことができない。なぜなら設計図の時点で間違っているからだ。なぜ、組み立てる前に設計図を何度も見なおさなかった?」と。

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[5]「完成」と「完成度」のジレンマ

漫画家になるための鉄則として、まず《とにかく完成させる》というものがあります。
これはとても大事なことです。
どんな内容でも、ENDマークがついた時点で、一つの作品、著作物として成立し、誰かに見てもらうことも、賞に応募することもできます。完成させたことが自信となり、次へのステップになります。
しかし、《完成度》にこだわり過ぎると、完成にまで至らないといったことがよく起こります。途中で投げた作品については、それは作品ではありません。
完成度にこだわり過ぎると、完成は難しくなり、完成を第一に考えると、完成度は下がってくる。
この完成と完成度のせめぎ合い、ジレンマが、多くの創作初心者にとっては悩みの種になっているようです。
この完成と完成度にうまいバランスの取り方を探るのが、創作していくのが、初心者にとっては重要なのだと思います。

最初は、とにかく完成させる、ENDマークをつけることを一番の目的にすることです。
そして、次のステップで、完成を目標にしながら、同時に漫画としての完成度を上げてゆくことを心がけるとよいでしょう。

それでは次回から、より具体的なキャラクターの創り方のテクニックに入るとともに、漫画の3大要素、「構成(コマ割り)・構図・消去(テンポ)」や、フキダシの形や短くて魅力的な一言のセリフの磨き方など、漫画家になるために第一の難関である「編集の壁」の越え方を伝授したいと思います。

キャラクターマン講座の詳細はこちら↓


大阪エンタテインメントデザイン専門学校

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コメント
KM 2014/05/05 19:07
小池先生には以前大学でお世話になりました。 先生のキャラクターの作り方、根本の考え方は非常に勉強になります。
佐々木無宇 2013/09/14 06:35
小池先生が常に語っておられるキャラクター論。漫画を描くということはキャラクターを立てるということ、そしてキャラクターを立てるための設計を、きちんと組み立てるということ。 これは漫画だけでなく、仕事でのプレゼン資料や、発表会の構成など、何にでも当てはまる、普遍的でとても大切なこと。 漫画は「漫画という文法を借りて、自分の伝えたいことを伝えること」なのだから、受け手の心にすっと入っていくことが大切。絵を描く人は絵を描く事自体が気持ちいいことなので、得てして枝葉が豪華になりがち。構成を組み立て、一番見せたいところに、一番いい絵を持ってくる。そんな設計図をきちんと描けるようになることが、いい漫画を描く第一歩なのだ。 先生の本などで何度も読んだ言葉だが、気をつけないと、といつも思い返す。 小池先生の優しい語り口で滔々と綴られるこの講座。続きが楽しみでならない。

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