第5回 中割りのお話

提供者 : セルシス    更新日 : 2015/06/30   
閲覧数 : 20379回 総合評価 : 1件
  • サンプルデータダウンロード(1.7MB)
    第5回で使用したRETAS STUDIOのデータをダウンロードしてご確認いただけます。
    ※当サンプルデータに関するユーザー様へのサポートは行っておりません。

 

(1)ツボを押さえよ

RETAS STUDIOの[Stylos]を使って動画を描くことは本当に楽しい。なにしろ、自分が作った画像が次々と動き出してアニメになるのだ。昔ノートの端っこに描いたパラパラマンガよりもっと楽しいことができるのが嬉しい。

しかし「動くこと」に感動していた時期が終わると、次には必ず欲が出る。「思い通りに動かしたい」という欲だ。もっと動画を極めたいと思ったときこそ基本が大切。「動きの基本」をつかんでおくと、自分の描いた動画をもっと生き生きと動かすためには何をすればいいのかが判ってくる。

基本の基本
今回は「中割りのお話」ということでアニメの「動き」の基本の基本を紹介しておこう。後半では「慣性の法則」なんていう、物理や数学が苦手な人からすると身震いしてしまうような言葉も出てくるが、公式を使って計算したりすることはないのでご安心を。

誰もがみんな「感覚的に判っている」ことを「動画」にするにはどうするのかを考えるだけなのだ。難しい言葉よりもこの回で紹介する動画をよく見て、「この動きはこういうことだ」と理解を深めて欲しい。今回説明する基本を押さえておくと、アニメの動きのツボが判りやすくなること請け合いなのだ。

 

(2)中割りの間隔によるスピードのコントロール

 

ではまず、車が移動する動画を使って、「動画とスピード」の関係を理解しよう。まずは下の動画を再生して欲しい。

車が移動している。しかしちょっと遅めの移動に見えないだろうか。この動画をすべて[ライトテーブル]パレットに登録している状態が次の画像だ。

右からスタートして左のエンド位置まで、この動画では24枚の作画用紙を使って車を動かしている。

1コマごとの自動車の移動量はこの程度だ。では次の動画を再生して確認しよう。

今度は先ほどの動画よりずいぶんと速くなったことが判る。この動画をすべて[ライトテーブル]パレットに登録している状態が次の画像だ。

右からスタートして左のエンド位置まで、この動画では6枚の作画用紙を使って車を動かしている。

ゆっくり動いていた先ほどの作画とは「1コマごとの移動量」が違っていることが判る。もう一度2つの動画を再生して「速さ」の違いを覚えておこう。

この2つの動画から判るのは「1コマごとの移動量」=「中割りの間隔」が大きいほど速く、小さいほどゆっくりになるということだ。

 

(3)タイムシートによるスピードのコントロール

それでは、もう一度最初の動画を確認しておこう。

この動画は次の様なタイムシートになっている。

タイムシートの3コマ(タイムシートの表示上では3行分)ずつに同じ動画番号を振り分けているのだ。アニメでは1秒間に24コマの絵が必要になる。しかし、これでは作画枚数がとても多くなってしまうので、一般的には3コマで1枚の絵を使用することが多い。

この3コマずつ同じ作画用紙を使用する方法をタイムシートの「3コマ打ち」と呼ぶ。このタイムシートによって動画の動きをコントロールすることもできるのだ。

次は2コマずつ同じ作画用紙を使用してみよう。「2コマ打ち」だ。

作画内容や作画枚数は全く変わらないが、タイムシートのタイミングを変更すると、実際の動きに違いが出てくる。

さらに、1コマに対して1枚の作画用紙を割り当てる。

2コマ撮りよりもさらに動きが速くなっていることが判る。

タイムシートのタイミングもアニメの動きを司る重要な要素であることが判る。タイムシートのタイミングに関しては残念ながらアニメ作品を見るだけでは判らない。しかし、最近ではアニメ作品の原画集などが販売され、その中にはタイムシートが収録されているものもある。機会があったらぜひ参考にして自分の作品に反映させたいところだ。

ここまでで、「スピード」と「中割り」「タイムシート」の基本的な関係性が判ってきただろうか。

 

(4)走り出して、停まる

これまで紹介した動画では、車は動いているが、「急に動いて、急に停まる」状態、あまり自然な動きではなく、ぎこちなさがある。しかし、車は「走り出して、停まる」ものだ。このぎこちなさを解消するにはどうすればいいだろう?

車が走り始めるときはゆっくりと走り出し、停まるときはだんだんとスピードを落として、最後の最後に停まる。これはごくごく当たり前のこと。自然な動画にするために、動き始めと停車するときの中割りをどう調整するのかを覚えておこう。

動き始めるときは、停まっている状態からだんだんスピードを上げていく。先ほど説明した「ゆっくり=中割りの間隔が小さい」「速い=中割りの間隔が大きい」を当てはめると、1枚目から4枚目までの中割りの間隔はこの図のようになる。

また、停車する場合はブレーキをかけ、だんだんスピードを落として最終的に停車する。これは先ほどと全く逆の中割りをすればいいだけだ。

それでは、実際の動画を見てもらおう。

このように、動き出す際に「ゆっくり動き出してスピードに乗る」「スピードがだんだん落ちて停車する」というようなことは物理で「運動の法則」を用いて説明することができる。後半は少し難しい内容を説明していこう。

 

(5)-1/2gt^2

さて、難しい公式が出てきたが、これは物がどれくらいの距離を落ちたのか計算する公式だ。もう一度言うが、今から計算をするわけではないので逃げないように(苦笑)!地球上ではすべての物体が重力を受ける。簡単に言えば、「物は落ちる」ということだ。ただ、それだけのこと。「物が落ちる」動きの中割りはどんなものだろうか。

例として、この車を落としてみる(よい子のみんなは実世界で真似しないように)。これが作画用紙の1枚目だ。2枚目以降、物理法則に従った中割りを進めていく。

慣性の法則
運動の第1法則とも呼ばれる「慣性の法則」(また小難しそうな言葉が出てきたと思った人も、何度も言うが難しい勉強をするわけではないので安心して欲しい)。コイツを理解すると俄然、動画の動きが自然になってくる。それくらい「慣性の法則」は重要な存在なのだ。

昔、夏休み最後の日、「ああ、このまま夏休みが終わらなければよいのに...」と思ったことはないだろうか?それと同じように、物体にも「このままの自分でいたい」と思う気持ちが働く、ということだ。

「今、止まっている物はずっと止まっていたい」と思う。「今、動いている物はずっと動いていたい」と思うのだ。「車は急に停まれない」これが慣性の法則そのものだ。ブレーキを踏んで、だんだんスピードを落として、ようやく停まることができる。反対に「止まっているものは、止まっていたい」のだ。それを阻害する存在、そのひとつが重力だ。

 

(6)重力があるから落ちる

この車は、今から落ちようとしているという設定だ。つまり「まだ落ち始めてはいない瞬間」が1枚目になる。今はまだ動いていないので、この車は「止まっていたい」と思う。しかし、重力が働くので、あえなく車は地面に向かって落ち始めてしまう。

これが作画用紙の2枚目だ。下側に車が移動している。1枚目の作画用紙を[ライトテーブル]パレットに登録して、薄く透かして見えるようにしているのだが、見えるだろうか。実は、ほとんどその差は線一本分くらいしかない程度しか動いていないのだ。そのため、[ライトテーブル]パレットに登録した1枚目が見えていないように思えるほど。

これは1枚目の車が「止まっていたい」と思っていたからだ。でも重力によって動き始める。ついさっきの瞬間まで止まっていたいと思っていた車は「動くのはいやーっ」と思っているが、強力な重力によって落下を始めてしまう。ついさっきまで止まっていたのだから、次の瞬間はほんのちょっとしか落下しない。

そして作画用紙3枚目。さっきは「ほんのちょっと落下してしまった」ので、2枚目の瞬間、車は「ほんのちょっと落下し続けたい」と思う。つまり、「ゆっくり動き出した自分でいたい」と思うのだ。しかし、さらに重力は働き続けるので、ついさっきの瞬間よりもさらに車は落下してしまう。今度は1枚目と2枚目の落下距離よりもたくさん落ちる。

そして、これが6枚目の作画用紙。中割りの距離が倍々に増えていっているのが判るだろう。「止まっていたい」から「ちょっと動き出してしまったので、ちょっと動く状態でいたい」へ、そして、さらにさらにスピードが上がっていく。

前半で説明した「スピードが速いほど中割りの間隔が大きい」「スピードが遅いほど中割りの間隔が小さい」ということがきちんと頭に入っていると、この動きを表現するのに必要な中割りの間隔が理解できるだろう。

物が落ちていく動画がどんなものかが判ると、その反対も簡単だ。

 

(7)ボールがはねる

ボールがはねていく様子を描くのも、物が落下する考え方の応用だ。ボールは落ちたら跳ね返る。つまり重力に逆らって「上昇」するのだ。

ボールが落ちて地面にぶつかると、跳ねてボールは上昇する。しかし上昇しようとするボールはやがて重力の魔の手につかまれ、再び落下を始める。その様子を動画で表現するとこのようになる。

実際には跳ね返るごとにだんだん高さを失って、いつかボールは地面の上で止まってしまう。この例では永遠にボールが跳ね続けるかのような不思議な動画になっているが、今回は跳ね返ったボールがどのような動きになるのかを端的に捉えておきたい。

落下するときとちょうど反転するようにボールが上昇する。また落下して反転して上昇...と繰り返していく。この動きは、地上からボールを投げる動作でも同様だ。

また重力の影響は縦方向にのみ受けるので、横方向の移動量は一定になる点を覚えておこう。

 

(8)振り子

基本の動画紹介の最後は振り子だ。

落下の動きが理解できると、振り子も同じように移動量が変化していくことが判るだろう。

中割りの間隔を「だんだん小さく」「だんだん大きく」していく度合いを感覚で覚えておくといいだろう。学校でならった物理を思い出せそうな人は、もう少し詳しく運動の法則や自由落下などを思い出しておくと、動画にも反映させることができる。つらかった学校の勉強も、たまには役に立つときがあるのだ。

 

(9)基本を組み合わせる

今回はアニメの基本の基本を説明した。これ以外にもいろんな約束事があるが、まずは今回説明した動画をよく観察しておこう。最初は「どんな動き」が「どんな作画(中割り)」で表現されているのかを覚えておくだけでも充分だ。基本の考え方の組み合わせが、さらに高度な表現へと導いてくれる。

それでは次回は、パターンで捉えられる作画を紹介して「作画編」の最後としよう。まずは作画しないとアニメは始まらないので、[Stylos]をたくさん使ってバンバン作画してみよう。

それではまた次回!

コメント
コメントはありません