第6回 作画、あれこれ

提供者 : セルシス    更新日 : 2015/06/30   
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    (1)歩くことを分解する

    そろそろ[Stylos]を使い慣れてきただろうか。アニメの制作では作画が終わってから彩色→撮影と作業が続くのだが、やっぱり作画はおもしろいものだ。いろいろ試して自分のイメージ通りの動画になったり、それ以上に意外な動きをしたり。特に個人で制作していると枚数の制限を受けないので、思いつくままにいろんな演技や動きを考えながら作画をしていくのは本当に楽しいものだ。

    新しい動画に挑戦して、それがうまくいったりすると、またその次にできる「動き」が生まれてくる。「こんなことしたい」「あんなことしたい」と思ったことを、いつでも実現できる面白さを知ると病みつきになってしまうのだ。

    さて今回で「作画編」はおしまい。最後に基本的な人の動作の説明をしておこう。題材は「歩き」と「走り」だ。

    まずは歩きについて考えてみよう。あなたは歩いている人をじっくり観察したことがあるだろうか。あまり凝視しすぎて通報されても困るのだが、絵を描くときと同様に動画を作画したいと思ったときも、まずは「観察」が重要。街角や駅、ショッピングセンターなど人がたくさん集まる場所に行って観察してしまおう。

    毎日のように人は歩いている。でも、ほとんどの人は「歩く」という動作そのものを深く考えたことはないだろう。

    アニメの作画ではそんな「みんなが当たり前すぎて気づかないこと」に着目する必要がある。もちろん、すべてをリアルなまま描くのではなく、リアルを知った上で「絵」でなければできない発想力を加えていく。難しいことを書いているようだが、とどのつまりが「本物をよく見てから好き放題やると、作画がおもしろくなる」ということだ。

     

    (2)足を前に出す

    さて前置きはこれくらいにして「歩き」を分解して見ていこう。まずは「足」に着目する。歩くときには足を前に出す。それは至極当然のことだ。しかし、この当たり前をもっと分解して見るのだ。

    まず「足を前に出す」の「足」。足とはどこだろう。絵に描いてみると判るが「足」とは下肢全般を指す言葉なので、結構エリアがでかいのだ。

    まずは立ち上がってみよう。そして身体のパーツに注意しながら1歩あるいてみるといい。歩くことは「足を前に出す」という表現もできるが、本当に歩いているときはもっと具体的に、どの部分に力が入っているだろうか?

    これは歩きの動画の途中の部分を取り出したもの。赤く塗られている右足が前に出ている。そして今は両足ともに接地している。前に進むために、次は白い左足が前に出てこなければならない。このときに、自分なら左足の「どの部分に力を入れて、足を前に出していくか」を考えてみると面白い。

    次のコマで、左足の膝が曲がる。それと同時に左足は中に浮いた状態に。代わりに赤く塗られている右足が全体重を支えている。左足を前に出さないといけないので、一旦つま先を地面から離している状態なのだ。

    このとき、左足を前に出すと言うよりも「膝を前に出す」という状態の準備段階になっていることに注目したい。実際に自分の身体で確かめられる人はぜひゆっくり歩いて、「膝」に意識を集中してみよう。

    膝は曲がったまま、後ろから前に出てくる。膝から下、足首からつま先にかけてはそれほど力は入っておらず、つま先が地面にすれないように「ほんの少し」上がっているくらいの状態となる。

    さらに膝が前に出ると、そろそろ踵(かかと)から左足を接地させる準備をしなくてはならない。膝から下を曲げたままでは足を前に出すことが出来なくなるので、ここでいったん膝の曲がる角度が緩くなる。

    歩きながら、前に降り出したつま先に集中してみよう。すると、膝が先に前に出て、あとからつま先が付いてくる状態であることに気付くはずだ。そして、つま先は勢いよく前に振り出され、踵(かかと)から接地する。これでやっと1歩分の動きだ。

     

    (3)腕の振り

    腕の振りは足のさばきよりもシンプルだ。前回の振り子を思い出して、腕を前と後ろに振る。

    赤く塗られている左腕が今身体の前に出ている状態。ここから振り子の動きで腕を動かしていく。

    振り子と同じように、次の動きは振り幅が小さい状態。

    振り幅が大きくなり、

    腕は後ろに振られていく。

    振り子の最後まで腕が振られて、これで1歩分だ。歩きでは1歩分を4枚の動画で表現することができる。

     

    (4)「歩く」を分解

    「歩く」を分解していくと簡単に動画ができあがっていく。しかし、歩きそのものは千差万別、人の数だけ「歩く」という動作がある。嬉しいときと落ち込んだときでは同じ人間でも歩き方は変わってくるだろう。

    普段、何気なくやっている、または見ている「動作」はたくさんある。しかし「動作」そのものを分解して考えることは少ない。アニメは、その「動作」の分解作業を積み重ねていくものなのだ。

    例えばビデオで動作を録画してスローで見ることも勉強になるだろうが、リアルさばかりを求めてもアニメの動きとしては面白くなくなってくることもある。「絵」でなければ表現できない様々な要素を取り入れていけるのもアニメの面白いところだ。

     

    ■「歩く」ムービー


    ■「その場で歩く」ムービー

    できあがった動画はこのような動きになった。この動きをもっと「元気はつらつ」にしようとしたらどうしたら良いのだろうか。もっと「重たい身体を引きずるような」歩きにするには?想像力を働かせて、[Stylos]のモーションチェックをフル活用しながら、様々な試行錯誤を繰り返してみよう。

     

    (5)走る

    「歩き」の次は「走り」だ。歩きと違って走りは動作が大きい。動きそのものが速いので、枚数も少し減ってくる。走るときは、屈伸とジャンプを繰り返して、身体をより速く前に進めていくので、中割の枚数も少なくなってくる。

    左足は前に振り出され、接地している。腕は足と逆の方向に振られている。この状態では、後ろに振り上げられた右足は、次の段階で前に振り出される。

    この状態が屈伸だ。前に振り出された左足は、身体の真下まで引き寄せられ、後ろから前に振り出されようとしている右足がさらに前に出てきている。この場合も歩きの動画と同様、膝が先行して振られていることに注目しておこう。腕も足とは逆のパターンで後ろから前、前から後ろに振り出されようとしている。

    これがジャンプの状態。後ろに振り出された左足はまだ地面に接しているが、次の瞬間には地面から足が離れるだろう。1歩分を3枚の動画で表現してもちゃんと走っているように見えるくらい、走りの動作は速い。

     

    ■「走る」ムービー


    ■「その場で走る」ムービー

    このパターンでは空中に浮いているところがないのだが、4枚目として両足とも地面から離れている様子を描いた動画を入れるのも面白い。走りの動画も歩きと同様に「必死に走る」「だらだら走る」など色んなパターンを試行錯誤するのも面白い。モーションチェックで確認しながらいろいろな動きを作り出してみよう。

     

    (6)試して、確かめる楽しさ

    [Stylos]では動画を描いて、すぐに動きを確かめられる楽しさがある。もう何度もここで書いてきたことではあるが、これは本当に凄いことなのだ。自分の作りたい動画が実際にリアルタイムでどのように動いていくのか、それを確かめるにはアナログ作業では手間と時間がとてもかかってしまうのだ。

    「動き」を試して、確かめるという武器を手に入れると、俄然アニメを作る楽しさが増してくる。このチャンスを最大限に活かして、様々な動画にチャレンジしてみてはどうだろうか。ちまたには面白いアニメ作品があふれている。お手本はそれこそ山のようにあるのだ。真似から入ったとしても、いつか自分のオリジナルになって、さらにワザが洗練されていくのはイラストやコミックも同じこと。どんどんチャレンジを続けていって欲しい。

    今回で作画編は終了だ。次回からは「彩色編」として[PaintMan]での着彩の方法を解説していこう。動画が何枚も必要だということは、着彩する絵も同様に何枚も必要だということ。効率よく大量の色塗りをさばくことのできる[PaintMan]は、その機能を知ると俄然使い勝手がよくなるのだ。動画が完成したら、ぜひ着彩をして作品を完成に近づけていこう。

    それではまた次回!

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