第10回 撮影-中割り-

提供者 : セルシス    更新日 : 2015/06/30   
閲覧数 : 8406回 総合評価 : 0件
  • サンプルデータダウンロード(0.16MB)
    第10回で使用したRETAS STUDIOのデータをダウンロードしてご確認いただけます。
    ※当サンプルデータに関するユーザー様へのサポートは行っておりません。

 

(1)隠れている

前回の最後に、ワンコ君が横にスライドして飛んでいくムービーをお見せした。このアニメ、実は作画枚数は5枚しかない。しかし、実際のムービーではワンコ君が右から左にスライドしている。

キャラクターの描かれた絵をカメラの前で横移動させると、カメラフレームにキャラクターが入ってきて、出て行ったように見える。そのスピードを調整できればいろんな演出もできるだろう。そう、セルを横に移動させればいいのだ。でも、実際にセルを動かすにはどうするのだろう?

前回のタイムシートは、セル番号を打ち込んだだけで他の要素はなにも触っていない。今回は、タイムシートに[位置]の情報を入力して、撮影でセルを移動させてみよう。しかし、[CoreRETAS]用のタイムシートを見ても、セルの位置を指定するような項目はなかった。さて、どうしたらいいのだろう。

そこで注目したいのが、タイムシートのココ。[CAM]のT位置Xと書かれたもの以外、すべて[セル番号]となっている。このボタンのどれでもいいのでクリックしてみると、このボタンの秘密が判るのだ。

ボタンをクリックするとメニューが表示された。
・T位置X
・T位置Y
・T位置Z
・TスケールX
・TスケールY
・T回転
・T中心X
・T中心Y
と並んでいる。その下に[T]が抜けた同じ内容と、最後に
・透明度
・モーションブラー
とメニューだけでも結構な数だ。実はこれらはすべて、[CoreRETAS]用のタイムシートで設定できる項目なのだ。撮影時はこのタイムシートの項目を操作して、数値を入力していく。ということは、隠れているだけで撮影時にはこれだけの項目が必要だと言うこと。う~ん、これは大変だ

 

(2)ステージとタップ

どうやら、セルをスライドさせたい場合は、前ページの項目を調整すれば良いらしい。でも、表計算ソフトのスプレッドシートの様な表に逐一数字を入れていくなんて正直言ってイメージが湧かないっ!!...という声が聞こえてきそうだ。そりゃそうだ。世の中、数学大好きで代数幾何の授業を喜んで受けていた、という人間の方が少数派だろう。ちなみに筆者もその逆の多数派だ。世の中のすべての事象は数式で表せるらしいのだけれど、そんな勉強している間に歳をとってしまいそうだ。

ということで、「絵描き」さんは直感的に理解できるモノなら得意なはず!いや、数学の得意な絵描きさんも知っているが、それでも直感的にできることのすばらしさに変わりはない。そこで登場するのが[ステージ]ウィンドウなのだ。ここでカメラやその他のセルレイヤーのフレーム、実際の画像が確認できることは前回の連載で紹介したとおり。

今回は、この[ステージ]ウィンドウを利用して「セルのスライド」をやってみようと思う。

まず最初に確認しておきたいことが、(1)と(2)の箇所。(1)は[タップ/レイヤー編集]ボタンで、今から操作するセルレイヤーをタップ管理するかどうかを決める。タップという言葉はあまり一般的ではないが、昔、某テレビ番組で出てきた算数お化けではない(このネタがわかる人は少ないかも)。タップとはアニメ制作の過程で利用する道具なのだ。

作画用紙は何枚も重ねて、少しずつ違う絵を描く必要がある。だからタップを使って紙を固定して、それぞれの紙がずれないようにするのだ。この文鎮のようなものがとても重要な役割を果たしている。

このタップ、デジタル作業ではお目にかかることのない道具だが、今でも現役バリバリ、アニメ業界ではアニメーターの必須アイテムなのだ。アナログでアニメを制作していた時代、複数の作画用紙を固定するために使うタップは、撮影時にも活躍した。たとえば、AセルとBセルを一緒に動かしたい場合。この場合は、AセルとBセルを一緒のタップに重ねてしまえばいい。背景は別の動きをするのなら、背景は違うタップに重ねる。

...なんとなく判ってきただろうか。撮影時、タップというのは複数のセルを同じようにスライドさせたい場合に利用していたのだ。すべてのセルが全部ばらばらに動くのならタップもその数だけ必要になる(実際にセル画を使った撮影では、セルを重ねすぎると下にあるセル画や背景が見えにくくなってしまうので重ねる枚数に制限があった)。[CoreRETAS]でもこのタップの概念を利用できるのだ。

どのセルレイヤ―がどのタップに重なっているのかを示すのはタイムシートのココ。[A]は#01、[B]は#02、[C]は#03...という具合に、初期状態では各セルレイヤーがばらばらのタップにつながっている。デジタルの特権として、タップがどんなに増えても大丈夫...ということもあるが、これらを共有するときの方法だけ説明しておこう。

たとえば[B]を[A]と同じ動きをさせたい、つまりタップを共有したい場合は、[B]のタップボタン(#02が表示されている部分)をクリックして、メニューのタップ一覧から[#01]を選択する。これで、[A]も[B]もタップを[#01]で共有できるのだ。

今回の作例では使用しないが、複数のセルレイヤーを同時に操作する必要がある場合はこの[タップ]の概念を覚えておこう。

そして話を戻すと、このタップ単位で編集をするためのモードが[タップ編集]なのだ。[ステージ]ウィンドウの左上に[タップ編集]の文字が表示されていることを確認して作業を進めよう。

 

(3)ステージで遊ぼう

タップのことが判ったら、実際にステージ上でセルを移動させてみよう。

まず、(1)のタップ番号を[#01]にして、セルレイヤー[A]を操作する準備を。(2)の[移動]アイコンをクリックして、セルを平行移動できるようにする。あとは、フレームを1フレーム(コマ)目に設定したいので、(3)をチェック。ここで数値が[1]以外なら(4)のスライダーを使って、1フレーム目まで戻しておこう。

さて、この状態で今選んでいる[#01]のセル位置を移動させてみよう。やり方は簡単、

ステージ上でドラッグするだけである。今回は右横方向にのみ動かしたかったので、[Shift]キーを押下しながらドラッグをした。これで水平垂直移動がしやすくなる。これをタイムシートで行おうと思ったら、横方向に何ピクセル移動させる必要があるかを計算して入力...ということになる。少し気が遠くなりそうだ。

ただ、これは1フレーム目のセルの位置を移動させただけに過ぎないことを理解しておいて欲しい。どういうことかというと、タイムシートを確認するとよくわかる。

セルレイヤー[A]の[T位置X]を確認すると、1フレーム目は[832.0]だが、2フレーム目は[0.0]になっている。それ以下の[-]マークはそれ以降が同じ値であることを示している。この図でわかる通り2フレーム目以降は動いていない。
しかし1フレーム目だけとはいえ、無事に移動させることができたわけだ。先ほどステージで[A]の1フレーム目を移動させた内容がタイムシートにちゃんと反映されている。

タイムシートに数字を入力していくのはかなり疲れる作業だし、視覚的にぴんとこないかも知れないが、ステージを使って操作をすれば、かなり感覚的に理解できる。

さて、続きを進めよう。今回は、ワンコを右から左に移動させたいのだが、現状、1フレーム目だけ右に移動してカメラフレームから出てしまった状態だ。これでは移動とはいってもテレポーテーションだ。右から左にだんだん動いていくようにするためにはどうすれば良いだろう?

動画を描いていたことを思い出してみよう。「第5回中割りのお話」で車が移動するときの話をした。つまり、ワンコが右から少しずつ左に移動していけばいいのだ。ならば話は簡単、1フレーム目にやったのと同じように、2フレーム目以降、1フレーム目に置いた位置よりも少しずつ左に移動させていけばいいのだ。超簡単だ!

そうそう、タイムシートの下部にどれだけのフレーム数があるのかを表示する箇所がある。それが上図の位置だ。ここをみると、今回のタイムシートが288フレームあることが判る。つまり22秒間分......

さあ、288フレーム分、[ステージ]ウィンドウでセルレイヤー[A]のフレームごとにセルを移動させて.........いや、確実に辛いぞ、それ。一体全体、どーするんだ...!?

 

(4)中割りパレット!

ここで活用するのが[中割り]パレットだ。

メニューの[ウィンドウ]→[中割り]を選択(または[F9]キーを押下)し、[中割り]パレットを表示する。その中で[中割り]と書かれているところを開く。ここでは何ができるかと言うと、AからBまでのちょっとずつ増減する数値を自動で計算してくれる。つまり、中割りをしてくれるということだ。

まず、中割りを行う前の準備をしておこう。

スライダーを1フレーム目に設定して、(1)の[非連続キーフレーム設定]ボタンをクリックしよう。X/Y/Zの位置情報の数値を表示している部分に[非連続キーフレーム設定]マークが表示されたはずだ。これでセルレイヤー[A]のスタート位置を設定できた。

タイムシートを見てみよう。セルレイヤー[A]の1フレーム目には赤い三角マークが入って、[非連続キーフレーム設定]のスタート位置であることが登録されている。
Yにも非連続キーフレームが表示されているが、今回は気にしなくても大丈夫。

[ステージ]ウィンドウに戻り次はフレームスライダーを右端まで移動させ、フレームを[288]にしてセルを左端に移動させる。横移動だけさせたいときは[Shift]キーを押下しながらドラッグすることを忘れずに。そして、[非連続キーフレーム設定]ボタンを再度クリックして、288フレーム目が中割りの終わりであるマークを入力しておこう。

するとタイムシートの[A]の288フレーム目にもちゃんと[非連続キーフレーム]マークが入っている。次はそのままタイムシート上で[非連続キーフレーム]マークが入っている部分を選択する。

[非連続キーフレーム]の範囲を選択すると、[中割り]パレットの中割りボタンがアクティブになる。

青い三角のボタンが[中割り実行]ボタンだ。[種類]は等速のままで構わないので、このまま[中割り実行]ボタンをクリックする。

[A]の数値が一瞬にして計算された。これで1フレーム目から288フレーム目までの中割りが完了だ。一度[ステージ]ウィンドウ上で、動きを確認してみよう。

フレームスライダーで1フレーム目まで戻したら、[再生/停止]ボタンをクリックする。

RAMプレビューのようにリアルタイムではないが、どのようにセルが動いているかが確認できる。コマ送りなどビデオ感覚で操作できるので、確認するときに利用すると良いだろう。

 

(5)中割りを調整!

さて、[中割り]パレットで[中割り実行]ボタンをクリックする時に、[種類]のところで[等速]という表示が気になった人もいるだろう。これは中割りを調整するためのものだ。

・[等速]で中割りした動画はコチラ

・[加速]で中割りした動画はコチラ

・[減速]で中割りした動画はコチラ

・[加速→減速]で中割りした動画はコチラ

それぞれの動きの違いがわかるだろうか。作画でおこなった中割りと同じ理屈になるが、[CoreRETAS]の撮影作業時には自動で計算してくれるのがナイスだ。ひとまず様々な中割りを実際に行ってみて、どのような動きになるのかを確認してみよう。

今回は横に移動するワンコの「中割り」についてのみ説明したが、次回は移動だけではなく、拡大縮小や回転についても説明をしていこう。背景も寂しいので挿入したいところだ。

中割りは撮影作業のなかでも面白い作業の1つ、いろいろ試して、中割りの奥の深さを感じておこう。それではまた次回!

コメント
コメントはありません