第3回「クロス透過光」
閲覧数 : 15883回 総合評価 : 2件
(1)はじめに
今回は「クロス透過光」について説明します。
フィルム撮影では「ピンホール透過光」に「クロスフィルター」を併用して表現される効果です。
実際のアニメで使われるケースでは目が「キラ~ン」と光ったりする表現に使われたりします。
今回は暗闇に光る目の表現で「キラ~ン」を表現したいと思います。
「ピンホール」とはその名の通り針で開けた穴からの光です。
また沢山のピンホールをあけたマスクの下で光を乱反射させるようなガラスを2枚動かすことでキラキラ感を出し水面のキラキラ処理に使われたりします。
「クロスフィルター」というのは意図的にレンズ前で決まった形に乱反射を起こさせるものです。
ピンホールからレンズに届く光は「光の点」でしかありません。
これを縦横に乱反射を起こすことで光が縦横に伸びクロス状の光が発生します。
デジタルではこのような光学的方法では表現できないのでそれを模した形となります。
今回の絵は、バスルームの扉が開き、そこから覗いている目が光るという表現です。
まだ「クロス透過光」を入れていない状態がサンプルカットフォルダ内の「ノーマル.tsf」です。
(2)クロス透過光の作成
作例として、以下のデータを使用します。
今回、クロス透過光を作るマスクは「クロス元.pct」です。
これは単純に黒一色のマスクの中央に白の点(ピンホール)を付けています。
(1)新規にレイヤー数「7」に設定したタイムシートを作成し、セルバンク「A」に「クロス元.pct」を登録します。
(2)「A」レイヤーの全フレームを選択し、セル番号「1」を入力します。
(3)このピンホールマスクに[エフェクト]メニューから[クロス透過光]を適用します。
(4)[レイヤー設定]パレットを表示し、マスクの透過指定を[全面不透過]としておきます。そうしないとピンホールの白が抜けて(透過して)しまいます。
「クロス透過光」のデフォルトでは下図のように表現されます。
(5)これではただの「白いバッテン」ですので[レイヤー設定]の[エフェクト]タブで下図の通りパラメータの調整をします。
(6)パラメータを調整した例が下の画像です。ただ、これでは白の単色です。
次の項目では、この透過光に色味を加えてクオリティアップを図ります。
(3)透過光に色味を加える
クロス透過光というものをテレビアニメなどで観てもらえば分かりますが白い光でも微妙に虹色に見えます。
これを再現してみましょう。
(1)現在「A」レイヤーにリンクする「A」セルバンクには「クロス元.pct」が登録されています。
「B」レイヤーのセルバンクもデフォルトの「B」から「A」に変更します。
同じセル(マスク)であれば再度セルバンクに登録せずとも、リンクを変更するだけでBレイヤーでも同じAバンクの素材が使えます。
同様にして「C」から「F」までの全てのレイヤーのセルバンクを「A」に変更し、セル番号「1」を入力しておきます。
タイムシートは以下のような状態になります。
(2)続いて、[B]レイヤーにも[エフェクト]の[クロス透過光]を適用します。
再度[エフェクト]メニューから[クロス透過光」を選んでも良いですが、同じパラメーターのエフェクトにするなら、「A」レイヤーのエフェクトをコピーすることもできます。
「A」レイヤーのエフェクトレイヤーのレイヤー名をクリックし[option]キー(Winの場合は[Alt]キー)を押しながら「B」レイヤーの右にドロップすれば「A」レイヤーのエフェクトレイヤーと全く同じパラメータのエフェクトレイヤーが「B」レイヤーにコピー出来ます。今回はこの方法でコピーします。
(3)現在、「B」のエフェクトレイヤーは「A」のエフェクトレイヤーのパラメータと同等ですが、[周辺光広がり]のパラメータを200から130に落とします。
これによりBのほうの光の足の長さが短くなります。
(4)さらに周辺色(R:19 G:78 B:255)と中心色(R:114 G:228 B:255)に青系の色を設定することで光の足の短い青いクロスが表現できます。
これを「A」レイヤー(白)と重ねることで、白いクロスに青みをプラスすることができます。
(5)さらにこれに光の3原色である赤と緑を同じ手法で重ねます。
「B」レイヤーのエフェクトを「C」レイヤーにコピーし、[周辺光の広がり]を「80」、周辺色=R:14 G:227 B:66、中心色=R:148 G:255 B:175と設定。
「C」レイヤーのエフェクトを「D」レイヤーにコピーし、[周辺光の広がり]を「60」、周辺色=R:255 G:23 B:2、中心色=R:255 G:109 B:79と設定。
(6)このままではピンホールの中心が白くなりませんので中心部分にさらに白を重ねます。
「D」レイヤーのエフェクトを「E」レイヤーにコピーし、[周辺光の広がり]を「20」、周辺色=R:132 G:255 B:249、中心色=R:254 G:255 B:252と設定。
最後の「F」レイヤーは[エフェクト]メニュー→[ガウスぼかし]をぼかし「10」で適用します。
これで光の感じのクロスにかなり近づきました。
ここで一旦タイムシートを保存します。
ここまで作業したシートがサンプルフォルダ内の「クロス05.tsf」です。各レイヤーの設定が面倒な場合はこのシートを使っても結構です。
(4)透過光の足を増やす
現在 このクロス透過光は4本足(上下左右の4方向に光が延びている状態)です。
これに短い足を4本プラスして少しアレンジを加えてみましょう。
「エフェクト」の「クロス透過光」でも足の数を8本にすることはできますが、この場合全ての足の長さが揃ったものになります。
(1)ここでは以前に説明したネスティングを利用し、同じクロスを2枚重ねてクロスの中心をセンターに45度傾けます。
まずセルバンク「-BG」に先ほど作成したタイムシート「クロス05.tsf」を登録
「-BG」、「A」レイヤーにそれぞれセル番号「1」を入力しておきます。
(2)[T回転]で「A」レイヤーを「45」度傾けます。
また、クロス透過光の中心をセンターに縮小を掛けます。
「A」レイヤーの[TスケールX] [TスケールY]を「60」に設定します。
今回はこの程度のものにしますがこういう重ね合わせにより、クロス透過光に限らず様々な素材を工夫次第で作ることができます。
(3)今回のこのクロス透過光は「止め絵」の1枚ものですから動画として使う必要がありません。
動画として使用する場合は元絵のほうのコアレタスのシートにネスティングで使いますが、今回は1枚だけですのでこのシートから画像を書き出したものを使います。
任意のカレントフレームをダブルクリックしてレンダリングし、「画像の保存」をクリックするとその画像が保存出来ます。
作例では「クロス06_0001.pct」というファイルを保存しました。
(5)透過光の合成
保存した画像を前述の「ノーマル.tsf」シートに登録して使います。
(1)このクロスの素材はセルの登録と同じようにセルバンクに登録しレイヤーに適用して使います。
[タイムシート]メニュー→[レイヤー]→[挿入]から、新規に「クロス透過光」レイヤーを挿入し、セルバンクに先ほどの画像(クロス06_0001.pct)を登録します。
続けて、「クロス透過光」レイヤーの全フレームにセル番号「1」を入力します。
(2)タイムシートのパラメータを切り替え、「クロス透過光」のレイヤーの「T中心X」と「T中心Y」の数値をそれぞれ0→640、0→360に変更します。
今回はこのクロス透過光に回転や縮小、拡大も掛けます。
その場合の回転や拡大縮小の中心というのは「T中心X」と「T中心Y」で設定した座標となります。
※今回作成したクロス透過光の素材は1280X720のサイズで、透過光が丁度センター(X640、Y360)に来るように作ってあります。
それに対して、各レイヤーのデフォルト中心位置はX軸0、Y軸0、つまり画像で言えば左上角に設定されています。
この状態でセルに回転を与えると左上角を中心に回転してしまいます。
先ほど中心位置を変更したことにより「クロス透過光」レイヤーは回転や拡大、縮小の際はクロスの中心を基準に回転、拡大、縮小するようになります。
(3)また[レイヤー設定]パレットの透過設定を[全面不透過]に設定し、合成モードを[スクリーン合成]とします。
※[全面不透過]にするのはクロスの素材に万が一「RGB=255」の白が発生していたときに、通常の「白透過」ではそこが抜けてしまうおそれがあるからです。
(4)その後 クロスの位置とサイズを合わせます。この絵の場合は扉の隙間ですね。タイムシートで各パラメータを以下のように設定しました。
[T位置X]=1054
[T位置Y]=96
[TスケールX][TスケールY]=59
(5)これでは少し光が弱い感じがします。
こういう場合は同じクロスの素材を重ねるという方法もあります。
タイムシートを右クリックして[レイヤー]→[複製]を実行して、レイヤーをコピーします。
単純に重ねるだけでは良い感じが出ない場合は素材の透明度や合成方法を[スクリーン合成]などに変えてみるのも方法です。
※この後、クロス透過光に回転や「F.I./F.O.」を設定するので、実際にレイヤーを複製するのは、これらのパラメータを設定した後(6)-(2)の後で複製した方が、手間が少ないです。
・クロス素材の2枚重ね
・クロス素材3枚重ね
(6)仕上げ
1.透明度と回転
ここからは最後の仕上げになります。
もうひと手間加えて「キラ~ン」という感じを出します。
(1)クロス透過光にF.I.(フェードイン)F.O.(フェードアウト)と回転を付けます。
まずはF.I.(フェードイン)F.O.(フェードアウト)。
「クロス透過光」レイヤーのパラメータを[透明度]に切り替えます。
全てのフレームを選択し、透明度を「0」に設定。
続けて25~37フレーム目を選択して[タイムシート]→[キーフレーム]→[非連続キーフレームの設定]
37フレーム目に「100」を入力します。
タイムシートの25~37フレーム目を選択した状態で、[タイムシート]メニュー→[自動中割り]を実行します。
これで、時間経過とともに透明度が0~100まで上がり、「F.I.(フェードイン)」の効果ができました。
(25フレーム目の透明度0~37フレーム目の透明度100の間の数値が自動的に入力されます)
同様の手順で、46~61フレーム目に[非連続キーフレーム]を設定し、今度は透明度を100~0までの自動中割りを作成します。
(2)次に回転を設定します。
タイムシートのパラメータを[T回転]に切り替え、以下の設定で自動中割りを行います。
25フレーム=0 ~ 61フレーム=360
今回はアバウトに付けていますが「F.I.」や「F.O.」、回転のタイミングは調整してみてください。
ひとまず、これで動画が完成しました。
2.拡大縮小
最後にもうちょっと味付けをしてみましょう。
まず、先ほど作成したクロスのF.I./F.Oの場合 単純に光のインアウトを付けるだけでは光の足の長さが変わりません。
これは先ほどの動画「完成」を見て貰えば分かると思います。
しかし実際の光学的な表現をするならF.I.の時は次第に光の足が延びていき、F.O.の時は足が短くなっていくというのが自然です。
※実際のフィルム撮影の際も、カメラ側のシャッター開角度(F.I./F.O.,OWなどのときにフィルムに感光する量を調節)を開けたり閉めたりで表現しますがこれだけだと光の足が延びていったり短くなっていったりしません。
そのため、光源のほうの光量を落としてながらシャッター開角度で調整していくというテクニックがあります。
これも職人技で光源の光量を落としすぎると色温度が下がってしまい色がオレンジっぽくなります。
そうならないようにぎりぎりのラインで調整する必要がありました。
今回の作例ではこれをクロス素材の拡大 縮小で表現してみましょう。
タイムシートのパラメータを[TスケールX]に切り替え、先ほどと同様の手順で以下の自動中割りを行います。
25フレーム=10 ~ 37フレーム=59
46フレーム=59 ~ 61フレーム=10
※一通りパラメータを設定したら(5)-(5)の手順の通り、レイヤーを複製してクロス光の明るさを調整します。
「完成」のクロス素材に拡大、縮小を加えたものが「完成2」となります。
光の足の長さを調整するのはクロス素材を作成する段階でも可能です。
今回のように拡大縮小を用いると、透過光の足の長さとともに太さも変わってしまいますが、本来ならば、光の足の太さは変わらずに、短くなっていきます。
素材の段階で足の長さを調整しておけば、フィルム撮影時の効果に忠実な表現も可能で、綺麗に見える可能性は高いです。
ただし、この場合は透過光のタイミングが素材段階で決定してしまうため、後でタイミング変更をしたいと思った場合は素材からの修正が必要になります。
実際の作業では時間的制約などと天秤に掛けて方法を考える必要があります。
コメント