第4回「ストロボ効果」

提供者 : セルシス    更新日 : 2015/06/30   
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(1)はじめに

今回は「ストロボ撮影(効果)」について説明します。
これは動きに対して残像がつく撮影のことを差します。
分かりやすい例としては「北●の拳」で主人公が拳法の構えで腕を回す時などによく使われていました。
原理的には「OL(オーバーラップ)」という手法の連続です。
OLとは前の絵を徐々に消して行きながら次の絵が出てくる絵の繋ぎ方です。

 

これを連続して行う事で、絵の中で動いているものに残像がでます。これが「ストロボ効果」です。
理論上は何重にも残像を付けることは可能ですが、今回は一番分かりやすい残像が一つ出る方法で説明します。

この効果も、フィルム撮影とデジタルでは少し意味合いが異なります。
フィルムの場合は全体の感光率が常に100%になるようにしなければなりません。
多重で何像の残像を付ける場合でもこれを守る必要がありました。
そうしないと画面があおる(=明度が変化する)ということになります。
ですので、例えばAからBにOLする場合
A100%+B0%→A50%+B50%→A0%+B100%
というように絶えずAとBの合計が100%になる状態を維持しないと「画面があおる」ということになります。

同じOLでも、デジタルの場合はAの絵をBの絵が塗りつぶしていくと考えるほうが分かりやすいです。
ですので、実際の作業は...
A100%+B0%→A100%+B50%→A100%+B100%
という形で作業を進めることになります。
デジタルの場合は多重で何像にも残像が付く場合でも、フィルムのように合計100%を維持することに縛られません。

作例として、以下のデータを使用します。
・第4回作例データ

 

(2)タイムシートの作成

まず、動画「ノーマル」を見てください。

動画「ノーマル」

 

これは残像を付けずにレンダリングしたものです。
若干 絵の動きがカクカクとしていますが、これは作画枚数が少ないからです。
その作画枚数が少ない部分をOLで繋いでいきます。

 

1.セル番号の入力


(1)新規タイムシート(54フレーム)を作成し、セルバンク「-BG」に背景画像、セルバンク「A」に動画を登録しておきます。

 

(2)「BG」レイヤーの全てのフレームを選択して「1」を入力し、背景を設定します。

 

(3)「A」レイヤーを右クリックして、[レイヤー]→[複製]を実行します。
作例では複製したレイヤーの名前を「A+」に変更しました。

 

 

(4)Aセルを交互に2枚重ね、1レイヤー(A)は奇数セル、もう1レイヤー(A+)は偶数セルを下図のように配置します。

 

2.中割り


自動中割り機能を駆使して、各レイヤーの透明度を下図のようにセルの変わり目で0%-100%-0%-100%~と繰り返します。奇数レイヤー(A)と偶数レイヤー(A+)の透明度を足すと100%になります。
この状態に設定したシートが「ストロボ01.tsf」です。

 

POINT

中割りの方法

(1)タイムシートの表示パラメータを[透明度]に切り替えます。


(2)タイムシートで中割りするフレームを選択し、[中割り]パレットで[非連続キーフレーム]を設定します。


(3)キーフレームを設定したフレームに値を入力します。(作例ではそれぞれ「0」と「100」)


(4)[中割り]パレットで[自動中割り]ボタンをクリックします。


以上の操作を繰り返して、タイムシートを入力していきます。

 

このシート「ストロボ01.tsf」をレンダリングしたものが、動画「ストロボ01」です。

動画「ストロボ01」

 

これで残像が付いているのが分かると思います。
ただ、この動画は何か透明感が強く、実像感がありません。
これは、絶えず背景が透けて見えるためです。
次項では、このように透けてしまわないよう、改めてストロボ効果を設定します。

 

(3)ストロボ効果の設定

下図を見てください。セルが2枚重なった瞬間の1コマです。空き缶を通して背景が完全に透けて見えてしまっています。
これが実像感を感じられない理由です。

※「ストロボ01」のレンダリング結果

 

2個の缶が重なった緑の部分で背景が透けているのが分かると思います。
この緑の部分で背景が透けないようにしないと自然に見えません。

 

先ほどの「ストロボ01.tsf」で設定したストロボはセルのみの透明度を調整して残像を付けていました。
緑の部分から背景が透けないようにするにはセルのみをOL(オーバーラップ)するのではなくセルと背景の合成結果同士をOLさせることで解決できます。
フィルム撮影の場合は結果的にセルと背景の合成結果同士をOLすることになるので、「セルのみのOL」という状況は基本的にできませんでしたが、デジタルでは表現の幅が広がった分 こういうケースが発生する場合があります。
合成結果同士をOLさせるのは以前に説明した「ネスティング」を使います。

今回の作例のケースでは、背景を左にスライドさせています。
この場合、セルだけでなく、背景のスライドにもストロボを掛けることができます。
こちらについては後で説明しますが、まずはセルだけにストロボを掛ける手法を説明します。

 

1.合成用のタイムシートの作成


(1)「ストロボ01.tsf」シートの「A」レイヤー「A+」レイヤーに設定した[キーフレーム]を解除し、[透明度]を100%に戻します。
「A」「A+」レイヤーの全てのフレームを選択した状態で、[中割り]パレットの[キーフレーム解除]ボタンをクリック。

 

キーフレームが解除されたら、そのまま選択を解除せずに「100」を入力して[Enter]キーを押します。

 

(2)この、元に戻した「ストロボ01.tsf」を複製し、一つを奇数セル用、もう一つを偶数セル用シートとします。
1つは偶数セルを打ち込んである「A+」の適用チェックを外し、[ファイル]メニュー→[別名で保存]から、「ストロボ02奇数.tsf」として保存します。(チェックを外したレイヤーはレンダリングされないので、奇数セルだけのシートになります。)

 

同様に、もう1つは奇数セルを打ち込んである「A」の適用チェックを外し、[ファイル]メニュー→[別名で保存]から、「ストロボ02偶数.tsf」として保存します。

 

これで奇数セルだけのシートと偶数セルだけのシートができます。
これらをネスティングで1つのシートに纏めます。

 

2.タイムシートのネスティング


(1)改めて、新規タイムシート「ストロボ02.tsf」を作成します。(54フレーム)

(2)セルバンク「-BG」に先ほど作成した「ストロボ02奇数.tsf」シートを登録し、セルバンク「A」に「ストロボ02偶数.tsf」シートを登録します。

 

(3)[タイムシート]メニュー→[セル番号の自動入力]を選択し、「-BG」レイヤー、「A」レイヤーのセル番号に1~54までの連番を入力します。

 

(4)次に透明度の設定をします。
今回の作例では6コマでセルが入れ替わるので、6コマ単位にキーフレームを設定し、キーフレームにはセルの入れ替わるタイミングに合わせて0%、100%を入力しその間を中割りします。

先ほどの「ストロボ01.tsf」では奇数セルレイヤー「A」と偶数セルレイヤー「A+」の両方の透明度を設定しましたが、こちらのシート「ストロボ02.tsf」では重ね順が上にあたる「A」レイヤー(偶数セル)のみ透明度の設定を行います

 

こちらのシートでは、背景も含めた全面でのOLになるので、上の絵が100%であれば下の絵は完全に隠れてしまうので、
下地になっている「-BG」レイヤーの不透明度を変更する必要がありません。
(先に説明したように、下の絵を塗りつぶしていく形になります。)

[透明度]を入力したタイムシートは下図の通りになります。
中割りの設定方法は(2)タイムシートの作成>「POINT:中割りの方法」をご覧ください。

 

このシート「ストロボ02.tsf」をレンダリングしたものが「ストロボ02」です。

動画「ストロボ02」

 

「ストロボ01」と比べると緑の部分に背景が透けていないのが分かると思います。

※「ストロボ02」のレンダリング画像

 

※「ストロボ01」比較画像

 

 

(4)背景のストロボ効果

今回の作例では背景をスライドさせています。
動画「ストロボ02」ではセル(手と缶)だけに残像が付いていますが、前述した通りスライドさせている背景にも残像を付けることができます。

「ストロボ02.tsf」ではネスティングするタイムシートシートの全てのフレームのセル番号を連番で登録し、「A」セルの換わるタイミングに合わせて透明度を0%~100%に設定しました。

新たに作成する「ストロボ03.tsf」では、セルが置き換わるタイミングだけのセル番号同士を入力します。この状態で透明度を0%~100%にOLしてみましょう。

「ストロボ02.tsf」の設定をベースに[セル番号]と[透明度]を下図の通り変更します。

 

このように設定すると、背景にもストロボ効果を掛けることができます。(背景のスライドが省略されるため)
この「ストロボ03.tsf」をレンダリングしたムービーが「ストロボ03」です。

動画「ストロボ03」

 

背景にもストロボ効果が付いているのが分かると思います。

今回の作例では背景にスライドが付いていたためストロボ効果が分かりますが、背景がFIXの場合はどちらの方法を取っても仕上がりは同じになります。

この「ストロボ02」と「ストロボ03」は演出効果や好みで使い分けていいでしょう。

実際の現場でも、これらの絵(効果)のどちらも要求されることがあります。

POINT

レンダリング時間の比較

今回の作例ではそれほど違いは出ませんが「ストロボ02」と「ストロボ03」ではレンダリング時間は後者のほうが早くなります。
「ストロボ02」では、シートのセル番号を全フレームに入力しているため、毎フレーム計算が行われるのに対し、「ストロボ03」の方は、セルが置き換わったタイミングでしか計算されないためその分の時間が短縮されます。
複雑なシートを組む場合は同じ仕上がりになる映像でもレンダリング時間がかなり変わってくることもあるので、そのあたりに気をつけると作業時間を効率よく使えるでしょう。

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