第5回「撮影時におけるセルの拡大・縮小」
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(1)はじめに
前回までは、フィルタ等を利用した画面効果を解説しましたが、
今回の講座は素材の拡大、縮小に関してです。
プロの世界では描き手の絵に対して「1枚いくら」という歩合制の世界が確立しています。
そのため、予算を押さえるためにできるだけ作画枚数を減らす手法が存在します。
個人制作の場合でも、作画の労力を減らすために、これらの手法が役に立ちます。
例えばフィルムの撮影の時にもよく行われた手法ですが、足踏みをしている繰り返しのパターンを作ってその歩幅に合わせてセルやBGをスライドさせる手法があります。
これなら繰り返しの6枚程度の作画枚数で左右の画面端から反対側の端まで歩かせることができます。
※「RETAS STUDIO 集中講座」第6回サンプルより
アナログのフィルム撮影ではこれが限界でした。
つまり画面の奥に向かって歩いて行く場合や、こちらに向かって歩いてくる場合は全てを作画しなければなりませんでした。
しかしデジタルでは素材そのものを画面に対して拡大、縮小が可能です。
もちろんCoreRETASでもこの機能はサポートされています。
今回は例として繰り返しのパターンの作画だけで奥に走っていく画面を作ってみましょう。
作例として、以下のデータを使用します。
・第5回作例データ
(2)セルの縮小
動画「ノーマル」を見てください。
動画「ノーマル」
これはBG(背景)にセルを重ねただけです。
ですので、その場で足踏みしているだけですね。
これを奥に向かって走らせてみましょう。
作例カットフォルダ内の「ノーマル.tsf」を使用します。
セル(走る男)を拡大、縮小する場合、まずどのポイントを中心に拡大、縮小させるか決めないといけません。
上図を見てください。タイムシート上ではAセル(走る男)レイヤーが選択されています。
ステージの方ではAセル(タップ「#1」)の輪郭が黄緑の強調線で表示されているのが分かります。
デフォルトの中心位置は左上角になります。
黄緑の強調線の左上角に+字マークが付いています。これが中心の印です。
この+字マークを拡大、縮小の中心にしたい位置まで移動します。
(1)ステージの「中心」アイコンをクリックします。
また、[中割り]パレットの[自動更新]をオンにしておきます。
(オンにしておくと、タイムシートで全フレームを選択しなくても、中心位置の移動が全フレームに適用されます。)
(2)すると[ステージ]上の+マークをドラッグして移動できるようになります。
今回は、この中心は走っていく先である消失点(廊下の端)になります。
+マークを廊下の端に移動します。
これで消失点を中心にセルが拡大、縮小が出来るようになります。
(3)タイムシートのAレイヤーのパラメータ表示を「TスケールX(Y)」に切り替えます。
(4)ステージの「スケール」アイコンを選択し、ステージ上でAセル(走る男)を拡大し拡大のスタート位置を決めます。
ステージ上を右方向にドラッグするとセルが拡大されます。(作例ではTスケールX=151に設定しました。)
(5)シートの1コマ目を選択し[中割り]パレットの中の「値」から[非連続キーフレーム設定]をクリックします。
タイムシートのAレイヤーの1コマ目に[非連続キーフレーム]が設定されます。
(6)今度はシートのラストフレームを選択しセルを縮小させます。
[自動更新]がオンになっている場合、キーフレームを設定した後で異なるフレーム(ここではラストフレーム)で拡大、縮小を付けると自動的にそのフレームにもキーフレームが設定されその2つのキーフレーム間が中割りされます。
これを書き出したムービーが「セル縮小1」です。
これで消失点に向かって走っていく絵が出来上がります。
しかしこのムービーをよく見ると問題点が2つあります。
1つは「走っていくほど速度が加速していくように見える」こと。
もう一つは、「足が滑って見える」ことです。
(3)「中割りの種類」の設定
先ほどの動画の問題点の1つ、加速して見える理由は「中割り」の種類が「等速」になっているからです。
等速になっているとなぜ加速していくように見えるのでしょうか?
セルの拡大・縮小では「面積比」で等速にならないと等速に見えません。
移動の場合と違って、拡大・縮小の場合は縦、横の辺の長さで等速に割ってしまうと、縮小を重ねるごとに縮小される比率が大きくなり、面積比では加速していることになるからです。
この問題の解決には[中割り]の種類を切り替える必要があります。
[中割り]パレットで中割りの[種類]を[スケール比例]に切り替えます。
また、[参照先]を「タップ」、「#01(Aセルのタップ)」に設定しておきます。
リストを変更すると中割りが自動的に更新されます。
この状態で「中割り」を割り直して書き出したムービーが「セル縮小2」です。
奥に等速で走っていくように見えると思います。
これで、面積比で等速になるように計算してくれます。
(4)中割りを3コマ打ちにする
次は足が滑って見えることの解決方法です。
シートのセル番号の打ち込みを見て貰えば分かりますが、Aセルは3コマ打(同じ番号が3コマ分続く状態)になっています。一方で、セルの縮小の中割りは全コマに入力されています。
動画は3コマ打にも関わらずセルの縮小は1コマ打になっているため、動画(足)が停止している2コマでも縮小されるので、滑りが発生します。
ということは、縮小も(動画と同じ)3コマ打にしてやればこれは解決します。
[中割り]パレットの中の[同セルは同一値]にチェックを入れ、その横のプルダウンメニューから「A」を選択します。
すると、「A」レイヤーに登録されているセルの変更タイミングごとに縮小が行われるようになります。
シートのスケール値が3コマ置きになっているのが分かると思います。
これを書き出したものが「セル縮小3」です。
これでかなり自然に奥に走っていくように見えますね。
しかし、それでもまだ足が滑っているように見えます。
動画「セル縮小3」での足の滑りは、縮小の幅と動画の歩幅の幅が一致していないためにそのように見えます。
これを解決させる方法は「セルの縮小のスタート位置かラスト位置をずらす」ことです。
今回のケース、動画「セル縮小3」では、足が後ろに滑っているのが分かると思います。
これはつまり動画のスピード(歩幅)よりも縮小のスピードが遅いということです。
ということは縮小のスタートサイズとラストサイズの差を大きくしてやれば良いということです。(縮小のスピードが上がるので)
足が出来るだけ滑らないようにセルのスタートサイズとラストサイズを調整して書き出したムービーが「セル縮小4」です。
今回の場合は縮小のセンター(消失点)を基準にスタートサイズを3200%、ラストサイズを20%に設定しています。
スタートを3200%まで持っていっている関係上、走る男がフレームに入ってくるのがカットの頭から4秒以上後になっています。
実際にこの方法を使う場合は、演出上必要なタイミングでフレームに入ることも考える必要はありますが、今回は「走って見える」ということを最優先で作ってあります。
(5)応用的な中割り設定
今回のケースでは大丈夫でしたが、タイムシートの数字上ではスケール比で等速になっていたとしても、見た目ではどうしても加速して見えたり、減速して見える場合があります。
この場合「中割り」の種類[スケール比例]では対応ができません。応用的な事例として、[スケール比例]以外の設定を紹介します。
(1)より自由な中割りを行う場合は種類で「グラフ」を選びます。
(2)[設定]ボタンをクリックすると[グラフ中割り設定]のダイアログが開きます。
このグラフを調整することで加減速の調整が無段階でできます。
デフォルトの状態でグラフは右上がりの直線になっています。この状態は「等速」と同じです。
(3)グラフの中央を左上の方向にドラッグしてみましょう。
直線が左上の方に引っ張られ弓状になっています。
この時グラフの下の等幅に並んでいたバーが右側に偏った形になっています。
これで中割りは減速していく形になります。
セルの縮小は「等速」だと加速しているように見えるわけですから、このグラフのように減速方向に調整してやれば奥に走っていくのが視覚上等速に見えるように持っていけます。
[スケール比例]では中割りが固定ですがこの方法だと見た目の速度を調整してやることも可能です。
「グラフ」は調整ポイントがスタートポイントとラストポイントの2点を使って速度の調整ができるので、色々試してみてください。
さらに複雑な速度変化をつけたい場合は、[グラフ]の代わりに[Bスプライングラフ]を選択してみましょう。
調整ポイントが複数設定できます。
今回の例では等速に走っていることが前提で作画もなされていますので、こうした「等速に見えない設定」にすると、逆に足が滑ってしまいますが、物が飛んでいく場合やロケットなどが奥に飛んでいく場合など、これらの速度変化で演出の幅を広げることが可能です。
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